Q60【孫への遺贈】相続・生前贈与との違い/基礎控除の金額は? /不動産取得税・登録免許税の取扱い/遺贈放棄や代襲相続はOK?

 最終更新日:2023/08/26 閲覧数:5,778 views

 

相続とよく似たものとして、「遺贈」という概念があります。
相続、遺贈のどちらも、死亡を原因として被相続人の財産を引き継ぐ方法ですが、その法的性格や相続税上の取扱いが大きく異なります

 
今回は、遺贈と相続の法律上及び相続税上の取扱いの違い、不動産取得税・登録免許税との関係につき解説します。
 

1. 遺贈と相続・生前贈与等との違い

(1)遺贈とは?

遺贈とは、被相続人の財産を、「遺言」により特定の人物等に無償で与えることをいいます。遺贈する相手は、人に限らず、法人や自治体等に対しても可能です(遺贈寄付)。

一般的に、遺産を贈る側は「遺贈者」、遺産を受け取る人は「受遺者」と呼ばれます。
 
遺言書による遺贈は、相続開始と同時に受遺者のものとなり、遺産分割よりも優先されます(遺留分を除く)。
したがって、受遺者は、原則として遺産分割協議には参加しません(包括遺贈を除く)。
 

(2)相続との違い

一方、相続とは、被相続人の財産を、包括的に法定相続人が引き継ぐことをいいます。
遺贈と相続の大きな違いは、遺贈の場合は「遺言書」によって「受遺者」を指定するのに対し、「相続」は、遺言書がなくても、当然に法定相続人に引き継がれる点です。

 
例えば、「配偶者や子供」は法定相続人となりますが、「お孫様」は法定相続人ではありません。
したがって、お孫様に財産を渡したい場合は、「遺言」により「お孫様」に遺贈する旨を記載します。
 
遺言書を作成することで、法定相続人ではない「第三者」に対しても「遺贈」が可能ということになります。

 

遺贈 相続
引き継げる方 遺言により、法定相続人以外の第三者(法人等もOK)など自由に選ぶことができる。 相続できるのは、民法で定められている「法定相続人」のみ
財産 遺贈の対象となる財産を、遺言などで自由に決めることができる(遺留分は除く)。 プラスの財産もマイナスの財産も包括的に引き継ぐ

 

なお、法定相続人自身に「遺贈」することも可能です。
 

(3)生前贈与・死因贈与との違い

遺贈は「遺言書」による「被相続人の一方的な意思」で行いますが、生前贈与は、贈与者・受贈者「両者の合意」が必要な点が異なります。
また、「死因贈与」は、生前贈与の一種で贈与者の死亡を条件として効果を発生させる贈与契約です。生前贈与と同様、贈与者・受贈者「両者の合意」が必要です。

 

2. 包括遺贈と特定遺贈

遺贈は、「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類があり、その内容や効果に大きな違いがあります。

 

内容 具体例 効果
包括遺贈 遺産の内容を特定せず、すべて(又は一部の一定の割合)の遺産を一括して与える遺贈。 Aに自分の遺産の1/2を与える 相続と同様の効果があり、財産だけでなく債務も引き継ぐことになる。したがって、相続放棄、限定承認も可能
特定遺贈 特定の遺産を指定して与える遺贈。 Aに有価証券、Bに不動産を与える 遺贈対象だけを引き継ぐため、借金などを引き継ぐことはない。

 

3. 「相続税計算」における「遺贈」の取扱い

(1)遺贈は相続税の課税対象

遺贈は、遺言による被相続人の一方的な意思表示で完結し、贈与ではありませんので、贈与税の課税対象とはなりません。
ただし、「人の死亡を原因とした財産の移転」である点で、相続と共通しています。したがって、遺贈は、相続と同様に、「相続税の課税対象」となります。相続税上は、「遺贈した」財産も相続財産(遺産総額)に含めて、相続税を計算します。
 

(2)受遺者の取扱い(基礎控除や非課税枠)

遺贈の相続税計算方法は、基本的に相続の場合と同じです。ただし、受遺者については、以下の点に注意が必要です。

 

基礎控除・
生命保険金等の非課税枠
法定相続人以外が受遺者の場合は、①相続税計算時の基礎控除や②生命保険金・死亡退職金の非課税枠計算時の「法定相続人の数」にはカウントされません。
相続税額の2割加算 配偶者、一親等の血族(親・子供)等以外が受遺者の場合、「相続税額の2割加算」が適用されます。
7年以内生前贈与加算
遺贈により財産を受け取った受遺者は7年以内生前贈与加算の対象となります(令和5年12月末までは3年内)。

 

 

(3)受遺者に適用される相続税上の控除・特例等

相続税上の税額控除や特例については、「相続人」に限定されるものもあれば、「遺贈」でも適用できるものがあります。未成年者控除・障害者控除は「法定相続人」が条件、相次相続控除は「相続人」が条件のため、「遺贈」には適用がありません。一方で、小規模宅地等の特例の要件は、「被相続人の親族」であればOKのため、相続人以外の方も、「遺贈」で特例を受けられる可能性はあります(法定相続人に対する遺贈は「相続人」として適用可能です)。

 

適用できないもの 適用できるもの
未成年者・障害者の税額控除
相次相続控除
小規模宅地等の特例

 

 

4. 不動産取得税・登録免許税

相続や遺贈の対象となる財産が「不動産」の場合、不動産の名義変更(相続登記)が必要となります。
相続と遺贈では、この相続登記の際の「不動産取得税」、「登録免許税」の取り扱いが異なります。

相続の場合、不動産取得税はかかりませんが、遺贈(特定遺贈)の場合は、不動産取得税がかかります(包括遺贈は除く)。ただし、相続人への遺贈の場合は、相続と同様の取り扱いとなります。
 
また、登録免許税の税率は、相続よりも遺贈(特定遺贈・包括遺贈共通)の方が税率が高くなります
 
まとめると、以下の通りとなります。

 

相続(法定相続人) 遺贈(法定相続人以外)
不動産取得税 かからない かかる(特定遺贈の場合のみ)
登録免許税 0.4% 2%(※)

 

(※)遺贈を受けた人が相続人の場合は、0.4%

5. 「遺贈」は放棄可能

遺贈は、「遺言」による一方的な「意思」により行われますが、必ずしも受け取らないといけないわけではありません。
相続放棄と同様、遺贈の場合も、「遺贈放棄」という手続により、「放棄」することは可能です。
ただし、相続放棄とは全く別の手続きとなります。相続放棄と遺贈放棄の違いについては、Q45をご参照ください。
 

6. 受遺者が先に死亡した場合(代襲相続)

遺言で相続人が「遺贈」の意思を示していても、被相続人が亡くなる前に、受遺者が先に死亡した場合は、遺贈は「無効」になる点に注意が必要です。
また、受遺者には代襲相続が認められませんので、受遺者の子への「代襲相続」は発生しません。
 

なお、遺言書で、あらかじめ遺言者よりも先に「受遺者が死亡」した場合の取扱いを記載する方法もあります。例えば、「受遺者が先に死亡した場合には、受遺者の相続人に遺贈する」等を定めていた場合は、有効なものとして扱われます。
 

7. Youtube

 
YouTubeで分かる「孫への遺贈」
 

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