保険金受取人が取得した保険金は、「保険負担者」の区分に応じて、何らかの課税(相続税・贈与税・所得税)がかかる点、前回お伝えしました。
しかし、保険金受取前に、保険料負担者が死亡してしまった場合・・どうなるんでしょうか?
実は、この場合にも、「生命保険契約に関する権利」というものに相続税がかかります。
生命保険契約に関する権利とは、まだ保険返戻事由が発生していないが、亡くなった時点で有しているであろう「解約返戻金」や「将来の満期保険金」を受け取ることができる権利のことです。
ちょっとわかりにくいと思うので、以下、一般的な保険と比較して説明しますね。
1. 一般的な死亡保険金の場合(「生命保険金契約の権利」が発生しない場合)
お父さんが、自分を被保険者(被保険者 = 被相続人)として自分で保険金を支払っている場合です。
受取人は奥さんです。
この場合、遺族が受け取る「死亡保険金」は、「みなし相続財産」として相続税の課税対象となります。
前回Q10 でお伝えしたとおりです。
この場合、「生命保険金に関する権利」は発生しません。
2. 生命保険契約に関する権利が発生する場合(相2①三)
同じ死亡保険金でも、「被保険者」を(お父さんではなく)お母さんにしていた場合はどうでしょう?(受取人はお父さん)。
つまり、「お母さんが亡くなった時のために」、お父さんが死亡保険金を支払っていたような場合ですね。
このケースで、今回のテーマである「生命保険契約に関する権利」が発生します。
この場合、お父さんが亡くなった時点では、お母さんはまだ「生命保険金」を受け取ることができません。
なぜなら、被保険者であるお母さんは「まだ生きている」ので、この時点では「保険支払事由は発生していない」からですね。
しかし、実は・・保険支払事由が発生していなくても、この時点ででお母さんに「相続税」がかかる可能性があります。
保険金を受け取るわけではないのに・・相続税??と思われるかもしれません。
これが、「生命保険契約に関する権利」に対して課税されるというケースです。
なぜなんでしょう?
お父さんが亡くなった時の「立場」をよく考えてください。
この保険は、保険負担者・受取人ともお父さんなので、お父さんには、生前、「将来お母さんが亡くなった時点で生命保険金を受け取ることができる権利」があったはずです。
また、保険を解約すれば「解約返戻金を受け取る権利」があったはずです。
うーん。。確かに。
「権利」があったとなると・・「財産」として相続税がかかりそうな感じになってきましたね。
その通りなんです。
この権利は、相続税上「財産価値があるもの = 生命保険契約に関する権利」として取り扱われます(掛け捨て保険は除く)。
そして、この権利(財産)は、被相続人死亡により相続人である「おかあさん」に相続されるという流れです。
(ちなみに、このケースでお母さんが先に亡くなった場合、遺族であるお父さんには「保険金」が支払われます。
この場合、お父さんに「生命保険金に関する権利」は発生せず、お父さんに所得税がかかります。)
自分自身が被保険者 | 死亡保険金 | 通常の生命保険 |
---|---|---|
他の人が被保険者 | 死亡保険金なし 解約返戻金や満期受取金の権利あり |
生命保険契約に関する権利 |
「生命保険契約に関する権利」を相続するのは、被相続人が他の人に生命保険を掛けていたときです。
死亡保険金は支払われませんが、その代わりに「権利」という相続財産を引き継ぎます。
(まとめ)生命保険契約の権利が発生する場合
- 相続開始時点で、保険事故が発生していない生命保険契約 = 被相続人以外の人が「被保険者」であるということ。
- 被相続人が保険料を負担していること。
3. 金額は?
生命保険金に関する権利は、被相続人が亡くなった時点の「解約返戻金」で評価します(財基通214条)
といっても、一般的には「保険会社」の方で計算してくれます。
解約返戻金や満期保険金のない掛け捨ての生命保険契約は「評価ゼロ」となります。
4. 生命保険の相続税の非課税枠
「生命保険契約に関する権利」の相続は、「みなし相続財産」ではなく、「本来の相続財産」となります。
したがって、一般的な死亡保険で利用できる生命保険の非課税枠を使うことはできません。
ここ、注意しましょう!
5. 生命保険金に関する権利を相続した場合の取扱い
「生命保険金に関する権利」を相続した場合、相続人は「被相続人の地位を引き継ぐ」ので、過去に負担した保険料は、新たな相続人が負担したものとみなされます。