Q117 不動産賃貸を「法人化」することによるメリット

 最終更新日:2023/01/01 閲覧数:8,629 views

 
個人でのマンション経営の場合は、「賃料収入」を受け取れば受け取るほど個人に帰属する「相続財産」は増加します。
一方、個人⇒法人化すれば、「賃料収入」は法人に帰属するため、その後の「相続財産」を抑えることが可能です。
今回は、不動産賃貸経営を「法人化」するメリット・デメリットにつき解説します。

 

1. 法人化によるメリット

(1) 相続税の観点

将来の相続財産の圧縮 法人化により不動産を法人所有にした場合、その後の「賃貸収入」はすべて法人に帰属するため、「相続財産」は増加せず、相続財産圧縮につながります。
また、法人の株主をお子様等にすることで、法人にプールされる賃料収入を含めた財産評価は、すべて「お子様保有の株式評価」に変わります。
不動産の評価方法が変わる 法人化により不動産を法人所有にした場合、対象不動産の評価は「不動産評価」から「株式評価」へと変わります。
非上場株式の評価では、一般的に株価が低くなる類似業種比準価額」を利用できる場合があり、一般的に不動産現物で保有するよりも評価を引き下げることが可能です。
ただし、設立後3年間は「純資産価額方式」での評価となり、評価額は高くなります。
遺産分割が容易になる 一般的に、不動産現物は「遺産分割」が困難です。
しかし、法人化すれば不動産現物が「株式」という証券に変わります。
不動産と異なり、株式の場合は、株数に応じた分割が可能となるため、遺産分割が容易となります。
相続資金の確保 法人で「賃料収入」の資金をストックしておくと、将来、個人側で相続税等による資金負担が発生した場合も、法人が個人から財産を買い取ることで「資金の移動」が可能です。
また、法人自ら「自己株式」の買取も認められるため、株主への資金移動も可能です(みなし配当の論点はあり)。

 

(2) 所得税・法人税の観点

税率が安くなる 所得税率は累進課税(15~55%・総合課税)となりますが、法人税率は、年間所得800万以下で22~23%、800万超でも32~33%程度で固定されるため、所得が多い個人の場合は、法人化することで税率が低くなります。
所得分散効果 法人の場合、自分に給料を支払うことが可能です。
給料を支払うことで、「給与所得控除」の存在により、所得分散による所得税税金圧縮効果があります。
なお、個人所得税の規定上、「青色専従者給与」の制度はありますが、自分への給料支払はできません。
法人契約の生命保険の加入 法人の場合は、加入できる保険の種類が増えます
例えば、法人は、従業員を被保険者とした「死亡保険」への加入が可能です。
また、退職金も損金にでき、受取側は、退職所得控除、死亡退職金の場合は「相続税の非課税枠」があります。

 

(3) その他

永続的に継続可能 個人と異なり、法人には寿命がありませんので、永続的に継続が可能です。
また、法人の場合は、たとえ代表が死亡や病気で倒れても、他の方が代表に就任することで、法人の法的手続全般を継続することが可能です。
銀行融資が有利 一般的に、個人よりも法人の方が「社会的信頼性」は高いため、法人の方が、銀行融資の審査の観点では有利になります。

 

2. デメリット

(1) 登録免許税・不動産取得税・消費税、印紙税の発生

個人から法人に不動産を移転する場合は、登録免許税(固定資産税評価額の2%)、不動産取得税(固定資産税評価額の3%)、消費税(取引価額10%)、印紙税などのコストが発生します。
また、消費税改正により、居住用賃貸不動産取得時の消費税は控除できなくなりましたので、取得法人側での消費税納税額は、改正前と比べて多くなります。
ただし、新設法人の場合は、消費税最大2年間免税のメリットがありますので、ある程度上記のデメリットは相殺されると思われます。

 

(2) 社会保険加入義務

法人の場合は、社会保険の加入義務が生じます。
ただし、家族経営の場合は、社会保険加入により、個人が受け取る将来の年金額は増加するため、一概にデメリットとも言えません。
 

(3) 資産譲渡時の所得税課税&資金負担

法人への不動産譲渡の際、「所得税」が課税される場合があります。
また、買い取る法人側では資金を準備する必要があります(同族関係者間の取引 = 適正な時価)。
ただし、帳簿価額(未償却残高)で売却すれば「譲渡損益」は発生しないため税額は生じません。
また、長期的な分割返済スケジュールを組むことで、一時的な「資金負担」の回避は可能です。

 

(4) 損益通算ができなくなる

個人の場合、「不動産所得」の赤字は「給与所得等」との損益通算が可能ですが、法人の場合は損益通算の制度はありません
ただし、法人の場合は「欠損金」が10年間繰越可能(個人の場合は3年)ですので、影響は限定されます。

 

(5) 法人設立費用や維持費

法人設立には通常10万円~30万円の資金が必要になります。
また、毎年利益に関わらず課税される「均等割」(年7万円程度)が発生します。
その他、一般的に、法人の方が諸々の費用は高くなります
税理士費用や、インターネットバンキング、振込手数料等への影響を想定しておく必要があります。

 

3. 建物のみを移す

個人から法人に不動産を移転する場合、古くから保有する土地で「取得費が不明」な場合は、売却額の95%が課税対象となり、「譲渡所得課税」が生じるケースが多いです。
したがって、個人で「土地建物」を保有する場合は、「建物」のみを法人に譲渡する事例が多いです。
建物だけの売却であれば、法人に「未償却簿価」で売却すれば、基本的に所得税の課税関係は生じません。(未償却簿価 = 時価)

なお、建物だけを法人に譲渡する場合、「土地」に関しては、法人は個人から借りる立場となり、「借地権課税」の問題が生じます。
ただし「借地権課税」は、「土地の無償返還に関する届出書」を税務署に提出することで回避することができます。
しかも、この届出書を提出することで、個人が保有する土地の相続税評価は20%減少させることが可能です(法人は同額を純資産価額に加算)。

なお、多額の「繰越欠損金」を有する法人に建物を移す場合は、あえて「土地の無償返還の届出書」を提出せず、借地権を発生させる場合もあります。
この場合、法人側は「繰越欠損金」と「借地権受贈益」の相殺により、法人税は発生しません
一方、個人側の土地の相続税評価は、「借地権割合」を控除した評価額まで大きく下がります。

 

4. YouTube

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