生前に遺言書で、特定の方に財産を譲ることは「遺贈」と呼ばれます。遺贈を受ける方は、「受遺者」と呼ばれており、相続人に対してだけではなく、第三者に遺贈も可能です。
この点、遺贈は遺言者による一方的な意思表示のため、受遺者が期待しない財産をもらってしまうことがあります。
例えば、売却が難しい不動産を遺贈された場合、固定資産税等の維持費だけがかかるなどのデメリットがあります。
こういった場合、相続放棄とは別に、「遺贈放棄」という手続きがあります。
似たような手続きですが、全く別の制度になります。
今回は、遺贈放棄をするケースや、相続放棄との関係につきお伝えします。
目次
1. 遺贈放棄とは?遺贈放棄を行うケースは?
(1)遺贈放棄とは?
遺贈とは、生前に「遺言」によって財産を特定の方に贈与することです。
しかし、必ずしも受け取らないといけないわけではありません。
「遺贈放棄」という手続により、「放棄」することが可能です(民986条1項)。
(2)遺贈放棄を行うケース
遺贈を受けても、それ以上のデメリットが考えられる場合です。例えば、以下の場合が考えられます。
●売却が難しい不動産で、遺贈を受けた後の「不動産維持費」を負担したくない場合
●遺贈分が、相続人に最低限認められる「遺留分」を侵害し、他の相続人とトラブルになる可能性がある場合。
2. 遺贈放棄の効果・期限・手続
(1)遺贈放棄の効果
遺贈が放棄された場合、遺言者の死亡の時に遡って効力が生じるため(民986条2項)、最初から遺贈が行われなかったものとみなされます。したがって、遺贈対象だった財産は、相続財産として、改めて相続人間で「遺産分割協議」により財産の配分方法を決定します。
(2)遺贈放棄の期限・手続
受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも遺贈の放棄をすることができます(民986条)。また、他の相続人や、遺言執行者に対して、口頭で「遺贈放棄」の意思表示をすれば、法律上は遺贈の放棄が成立します。
ただし包括遺贈の場合は、「相続放棄」に準じた手続きが必要と解されるため、期限は、相続開始を知った時から3か月以内(民法915条1項本文)、家庭裁判所での申述が必要となります。
内容 | 期限 | 方法 | |
---|---|---|---|
特定遺贈 | 特定の遺産を指定して贈与する遺贈。 | 期限なし | 口頭での意思表示でOK |
包括遺贈 | すべて(又は一部の一定の割合)の遺産を一括して贈与する遺贈。 | 相続発生後3か月以内。 | 家庭裁判所での申述 |
包括遺贈と特定遺贈の違いは、Q60をご参照ください。
包括遺贈の場合は、全ての財産・債務を引き継ぐことになるため、相続人が単純承認したのと同じ効果となります。
(3)遺贈放棄の撤回は不可
遺贈放棄については、原則として撤回は認められません(民989条1項)。例外的に、錯誤、詐欺・脅迫等による遺贈放棄の場合は、取消や無効の主張が可能です(民989条2項、919条2項)。
3. 遺贈放棄と相続放棄の関係
(1)遺贈放棄と相続放棄は全く別
相続の場合は、「相続放棄」という制度がありますが、今回の「遺贈放棄」とは全く別物の制度です。
したがって、たとえ「遺贈放棄」を行ったとしても、別途「相続放棄」の手続は行わなければいけません。
「遺贈放棄」を行った場合、遺贈予定であった財産は「相続財産」となり、相続人による相続の対象となります。
この結果、「受贈者」が相続人でもある場合は、たとえ「遺贈放棄」をした場合でも、その後「相続人」の立場で「相続財産」を引き継ぐことになるため、改めて「相続放棄」の手続を行う必要があります。
「相続放棄」は期限がありますので、被相続人の財産を完全に放棄したい場合は、「遺贈放棄」だけでなく、別途、「相続放棄」も行わなければならない点、に注意が必要です。
(2)ご参考~遺贈をうけて、相続放棄は可能か?~
遺贈放棄ではなく、「遺贈」で財産を受け取ったうえ、別途「相続放棄」を行うことは可能なのなのでしょうか?
例えば、相続人に財産と借金等があり、財産は引き継ぎたいが、借金は引き継ぎたくない場合です。
上記でお伝えした通り、「遺贈放棄」と「相続放棄」は、全く別物の制度ですので、遺贈を受けた人が「相続放棄」を行うことは可能です。仮に、相続放棄を行った場合でも、その効果が「遺贈財産」まで及ぶことはありませんので、遺贈財産は、そのまま引き継ぐことが可能です。
ただし、当該行為が、「債権者を著しく害する場合」には、債権者から「詐害行為取消権」(民法424条)で取り消される可能性がありますので、実務的には難しいところもあるようです。