将来の相続税を節税する目的で、生前贈与を検討される方は多いかもしれません。
年間110万円以内の贈与については、贈与税は課税されませんが、110万円を超えた場合、贈与税の負担はどの程度になるのでしょうか?
実は・・将来相続税が生じる可能性がある方は、たとえ贈与税が発生したとしても、110万を超えて生前贈与をしておいた方が、お得なケースがあります。
今回は、相続税、贈与税の税率比較、生前贈与課税と将来の相続税課税、どちらがお得なのかを検証します。
相続税は、遺産の総額から「基礎控除」を差し引いた額に課税されます。
相続税の基礎控除額 = 3,000万円 + 法定相続人の数 × 600万円
例えば、法定相続人が2人の場合、3,000万円+600万円×2人=4,200万円までは相続税は課税されません。
相続税同様、贈与税にも年間110万円の基礎控除がありますので、基礎控除内での贈与であれば贈与税は課税されません。
贈与税の基礎控除額 年間110万円
贈与税の「基礎控除110万円」は、贈与を受ける方1人あたりですので、贈与する対象が多いほど、相続財産を減らすことが可能です。
相続税、贈与税の税率は以下の通りです。基礎控除を差し引いた金額に課税されます。どちらも累進課税であり、財産が多くなるにつれて税率が高くなります。
相続税 | ||
---|---|---|
基礎控除後の金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
贈与税(一般) | 贈与税(特例税率)(※) | ||||
---|---|---|---|---|---|
基礎控除後の金額 | 税率 | 控除額 | 基礎控除後の金額 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | - | 200万円以下 | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 | 400万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 | 600万円以下 | 20% | 30万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 | 1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 | 1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 | 3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 | 4,500万以下 | 50% | 415万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 | 4,500万円超 | 55% | 640万円 |
(※)直系尊属⇒20歳以上の子・孫などへの贈与の場合の税率
上記表を見ると・・贈与税の方が「税率が高い」と感じる方もいるかもしれません。
確かに、生前に「全財産」を一気に贈与すれば、当然、贈与税の方が高くなります。
しかし・・現実的には異なります。単純な税率比較では、正しい結論は導けません。
相続税も贈与税も「累進課税」ですので、財産が多くなるほど税率が高くなります。
ただし、以下の点が異なります。
相続税 | 贈与税 | |
---|---|---|
小分けの有無 | 死亡時の「財産全額」に1回きりで課税されるため、小分けして相続は不可。 | 生前に小分けして何回でも贈与を行うことが可能 |
基礎控除利用回数 | 相続時に1回のみ | 贈与ごとに何回でも利用可能 |
贈与の場合、小分けして数年間贈与すれば、その都度基礎控除110万円が使えます。しかも贈与する対象は何人でも可能です。この点がポイントです。
例えば、310万円贈与した場合、贈与税は20万円(基礎控除110万円差引後の200万円に対応する税額)となります。贈与額310万円に対する実効税率は6.5%ですので、小分けに毎年310万円を贈与し続けた場合は、ずっと実効税率6.5%の負担で済む・・ということになります。複数回の贈与を行えば、たとえ、110万円を超えて贈与税が発生したとしても・・トータルの税額は安くなるケースがありそうですね。
この場合、毎年の贈与額は贈与税非課税枠内のため、贈与税は課税されません。21年後に残った財産につき、相続税のみが課税されます。
① 21年後の相続財産
1億円-(110万円×21年)=7,690万円
② 相続税額の計算
7,690万円-3,600万円(※)=4,090万円
(※)基礎控除=3,000万円+法定相続人1人×600万円
4,090万円×20%-200万円 = 相続税額618万円
この場合、毎年、贈与税が発生するとともに、21年後に残った財産につき相続税が課税されます。
① 21年間の贈与税額の総額
(310万円-110万円)×10%=毎年の贈与税20万円
20万円×21年 = 贈与税額 420万円
② 21年後の相続財産
1億円-(310万円×21年)=3,490万円
③ 相続税額の計算
基礎控除3,600万円以下のため、相続税はかからない
贈与税を負担して310万円贈与した方が、贈与税を負担しない110万円贈与よりもトータル税額は200万程度安くなります。
贈与をしない場合は、21年後の死亡時点で相続税のみが発生します。
(1億円-3,600万円)=6,400万円
6,400万円×30%-700万円(控除額)= 相続税額1,220万円
上記例題のように、贈与税を負担してでも贈与した方が「トータル税額」が安く収まる理由は、「累進課税」の構造に起因します。
相続税は、相続時点の「全財産」に一気に課税されるため、基礎控除を差引いた後の課税財産の絶対額は多くなり、累進課税の構造より税率が高くなります。
例えば、毎年110万円贈与の場合は、将来の相続財産は7,690万円となり、基礎控除を差し引いた額は4,090万円となります。この場合、3,000万円を超えた金額(1,090万円)には、20%の相続税が課税されます。
一方、毎年310万贈与の場合の贈与税率は10%ですので、上記の相続税率20%よりも安く収まります。つまり、21年間 310万円を生前贈与すれば、毎年10%の贈与税率を支払うだけで、その分、将来高い税率で課税されるはずだった「相続財産」を毎年減らしていくことができる、ということになります。
結論ですが、小分けして贈与を行う場合は、たとえ贈与時に贈与税が課税されたとしても、トータル税額は安く収まるケースがある、ということになります。
上記の結論は、将来、相続税が課税される場合に限定されます。将来の相続財産が「基礎控除額以下」に収まる方は、そもそも相続税が課税されませんので、生前に贈与税を払ってまで贈与をする意味はありません。
将来の相続財産の額によって、毎年の適正贈与金額は変わってきます。
将来相続税がかからない方 | 110万円の暦年贈与の範囲内での贈与でOK |
---|---|
将来相続税がかかる方 | 110万円を超えた暦年贈与の適正額 |
「相続発生日前3年以内に行った生前贈与」はなかったものとされ、相続財産に持ち戻しされます。つまり、相続発生直前に駆け込みで贈与をしたとしても、相続税は安くならない点に注意が必要です。
生前贈与は、あくまで贈与者及び受贈者双方の合意が必要となります。勝手に贈与した場合は、法律上「贈与」が有効に成立しません。
例えば、親が勝手に子供名義の通帳に贈与していた場合、贈与は成立しませんので、名義預金と認定され、相続税が課税されます。
生前贈与の有効性や注意事項については、こちらをご参照ください。
将来的には、110万円の暦年贈与は廃止される方向で検討されています(令和4年税制改正大綱)。また、現在の「生前贈与加算」の期間「3年以内」を、今後さらに長い期間に伸ばすことも検討されているようです。
したがって・・早いうちから贈与はやっておいた方がよいという結論になりますね。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4402.htm
同じように所有している土地でも、土地の評価は、その「利用使途」によって大きく変わります。
自由な利用制限のない土地(自用地)と比べると、賃貸している土地は、賃借人がいる分、利用する際に制約がありますので、相続税評価額は下がります。
「貸宅地」「貸家建付地」は、共に他人に賃貸している状態の土地のことを指します。
今回は、「貸宅地」「貸家建付地」の相続税上の評価を、「自用地」と比較して解説し、小規模宅地等の特例との関係等につきお伝えします。
土地の評価は、「利用に制限があるか」という観点で、以下の種類に分かれます。
この種類により、評価額が大きく異なってきます。
自用地 | 自分で利用している利用制限のない土地 |
---|---|
貸宅地 | 土地を第三者に賃貸し、第三者が建物を建設している土地 |
貸家建付地 | 土地上に自分が建物を建設し、第三者に賃貸している土地 |
借地権 | 地主から賃借している土地の利用権 |
貸家建付借地権 | 地主から賃借している土地上に建物を建設して賃貸している場合の土地の利用権 |
転貸借地権 | 第三者に転貸している借地権 |
転借権 | 借地権者から転貸された土地の利用権 |
貸宅地 | 貸家建付地 | |
---|---|---|
土地所有者 | 自分 | 自分 |
建物所有者 | 第三者 | 自分 |
「貸宅地」「貸家建付地」の評価は、基本的には「自用地評価」を基準に、一定の評価減を行って評価しますので、まずは自用地の評価方法をお伝えします。
自用地とは、賃貸などの制限がない、自由に利用できる土地のことです。
自用地の相続税評価は、①倍率方式あるいは②路線価方式のどちらかで評価を行います。
倍率方式 | 「固定資産税評価額」に指定の倍率を掛けた倍率方式 | 固定資産税評価額 × 倍率 |
---|---|---|
路線価方式 | 国税庁公表の「路線価」を用いた計算方式 | 路線価 × 各種補正率等 × ㎡数 |
自用地については、制限がない土地ですので、他の貸宅地、貸家建付地等のような評価減は行いません。
貸宅地は、自分の土地を他人に貸していて、土地上に、他人の建物が建っている状態の土地のことです。
ただし、他人に貸していても、無償の場合(使用貸借)は、自用地として評価を行います。
土地 | 建物 | |
---|---|---|
A(地主) | 土地所有権(貸宅地) | - |
甲(建物所有者) | 土地使用権(借地権) | 建物所有権 |
X(建物賃借人) | 土地使用権(借地権の一部) | 建物使用権(借家権) |
貸宅地の評価は以下となります。
自用地評価額 -(自用地評価額 × 借地権割合)
借地権とは、他人の所有している土地を借りて、建物を建てたりする権利、「土地の利用権」となります。
借地人は「借地借家法」という法律で保護されています。
借地権割合は、国税庁公表の「路線価図」に記載されています。地域によって異なりますが、おおむね60~70%程度の地域が多いです。
貸宅地は、他人の建物が建設されているため、利用が制限されます(更地に戻すためには立退料が必要)。
したがって、自用地より評価額は大幅に下がります。
●借地権は、建物が建設される場合に、借地借家法で認められる土地利用権ですので、建物が建設されていない場合(例 駐車場、資材置き場での利用等)は、「貸宅地」には該当しません。
●一方、駐車場等、資材置き場等など、建物が建築されていない場合は、借地権とは異なる「賃借権」を控除できる場合があります。
貸家建付地は、自分の土地上に自ら建物を建設し、他人に貸している土地のことです。
土地 | 建物 | |
---|---|---|
A(地主) | 土地所有権(貸家建付地) | - |
A(建物所有者) | 土地使用権(借地権) | 建物所有権 |
X(建物賃借人) | 土地使用権(借地権の一部) | 建物使用権(借家権) |
貸家建付地の評価は以下となります。
自用地評価額 - (自用地評価額 × 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
「借家権割合」は、全国一律30%となります。
上記の通り、「貸家建付地」の評価は、自用地より評価額は低くなりますが、計算式からわかるとおり、評価額からマイナスする金額は「借家権割合」「賃貸割合」をかけ合わせた金額となるため、「貸宅地」よりは評価が高くなります。
貸家建付地は、土地は賃貸しているものの、建物は自らの所有のため、貸宅地と比べると利用制限は緩くなるという考え方です(地主は底地部分は100%権利があるため、借地権部分のうち、借家権部分だけ土地の所有権が制限される)。
「賃貸割合」は、空室部分を除いた「賃貸」に供する部分です。後ほど詳しく説明します。
賃貸割合とは、貸家の独立部分がある場合に、その独立部分全体に占める賃貸部分の割合です(相続開始日)。
イメージは、名前の通り、全体に占める空室部分以外の「賃貸」している割合です。
「賃貸割合」は、以下の計算式で算定します
賃貸されている各独立部分の床面積合計 ÷ 家屋の各独立部分の床面積合計
床面積は、図面などから算定しますが、各部屋の面積が同じ場合は、実務上は部屋数で計算することもあります。
上記の「計算式」からわかるとおり、評価額からマイナスする金額は「賃貸割合」をかけ合わせた金額となるため、結果的にアパート等の空室が多い場合は、賃貸割合が低くなる結果、評価額からさしひける金額が少なくなり、結果的に相続税評価は上がります。
したがって、「賃貸割合」は高い方が、相続税上は有利ということになります。
この点、単に空室であっても、「一時的な空室」の場合は、空室とせず、賃貸しているものとして計算できることになっています。
国税庁上は、以下の判定基準で「一時的な空室か」を判定することとしています。
①各独立部分が課税時期前に継続的に賃貸されてきたものかどうか
②賃借人の退去後、速やかに新たな賃借人の募集が行われたかどうか
②空室の期間、他の用途に供されていないかどうか
④空室の期間が課税時期の前後の例えば1ケ月程度であるなど一時的な期間であったかどうか
⑤課税時期後の賃貸が一時的なものではないかどうか
などの事実関係から総合的に判断します。
上記④の「1ヶ月程度」は、あくまでも例示に過ぎません。「継続的に賃貸」されていて、新たな賃借人の募集が行われていることが立証できれば、1か月以上でも認められるケースはあります。
「貸家建付地」や「貸宅地」は、上記の評価減のほか、要件を満たせば、最大200㎡まで相続税評価額が50%評価減できる「貸付事業用宅地等の特例」との併用も可能です。
したがって、賃貸マンションやアパート経営をしている土地の場合は、自用地と比べると、評価がかなり抑えられるということになります。
貸家の評価は、建物固定資産税評価額 - (建物固定資産税評価額 × 借家権割合 × 賃貸割合)で算定します。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4613.htm
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4614.htm
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4602_qa.htm
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hyoka/04/12.htm
将来の相続税の節税を考えて、生前に贈与しておきたい!と考える方は多いですね。
贈与税については、年間110万円までの非課税枠があります。
この非課税枠を活用すれば、相続税の節税は可能です。
しかしながら、制度を正しく理解しておかないと、想定外に課税されるケースがありますので、注意点もあります。
今回は、「贈与税の年間非課税枠110万円」の内容と、留意事項につき解説します。
贈与税の集計期間は毎年1月1日~12月31日までとなります。
「年間110万円」を超えた場合、贈与税申告義務があり、贈与を受けた翌年3月15日までに税務署に「贈与税申告書」を提出します。
贈与税を申告する人はもらった方です。
渡した方ではありません。
誤解されている方もおられますが、贈与税は、住民税や社会保険への影響はありません。
申告結果が職場に通知されることはありませんので、ご安心を。
贈与税年間110万円の非課税枠は、贈与を受ける側1人に対する上限金額となります。
贈与を行う側ではありませんので、注意しましょう。
父親から、長男と長女に、それぞれ110万円ずつ贈与 | 贈与を受ける側(長男、長女)は、それぞれ年間贈与額110万円の非課税枠の範囲内のため、贈与税は課税されない。 |
---|---|
父親と母親から、長男に対して110万ずつ贈与した場合 | 贈与を受ける側(長男)の年間贈与額は220万円(110万円+110万円)のため、贈与税の非課税枠を超えます。したがって長男には贈与税が課税されます。 |
贈与税の非課税枠は身内の方への贈与に限りません。
赤の他人への贈与についても贈与税非課税枠110万円は認められます。
つまり・・財産を渡すことができる方がたくさんいれば、税金とられることなく、いくらでも贈与は可能ということですね。
110万円/年 × 3人 × 20年 = 6,600万円(贈与税非課税)
1億円 – 6,600万円 = 3,400万円
3,400万円 < 基礎控除4,800万円(※)以下のため相続税はかからない
(※)3,000万円 +(600万円 × 3人(法定相続人の人数))
(1億円 – 4,800万円)÷ 3人 = 1,733万円
(1,733万円 × 15% – 50万円)× 3人 = 約630万円(相続税額)
どうですか?毎年110万の贈与といっても・・バカにできませんよね。
20年間蓄積すると、相続税は630万円も安くなることがわかります。
上記のとおり、贈与税は、年間110万円までの「非課税枠」がありますが、相続開始前3年以内に贈与した金額については、贈与しなかったものとみなすルールがあります。
「相続開始前3年以内の贈与」と呼ばれます。
贈与がなかったものとされる・・ということは、贈与額が「持戻し」され、相続財産として課税されるということになりますので、注意しましょう。
「生前贈与」が法律上有効に成立するには、贈与者と受贈者両方に贈与を行う・受ける意思が必要です。
勝手に贈与した場合は、法律上、「贈与」が有効に成立しません。
例えば、親が子供の口座に毎年110万円を勝手に貯金している場合は、贈与は成立せず、結果的にこれらは贈与した側(親側)の相続財産と判定されます。
「名義預金」と呼ばれます。
定期贈与とは、あらかじめ、一定期間、一定金額の贈与が決められている贈与のことです。
例えば、1,000万円を、事前の取り決めに基づき100万円ずつ10年間に分けて行う贈与は「定期贈与」となります。
「定期贈与」の場合は、贈与開始時に「すべての金額を贈与する意思があった」とみなされ、贈与額合計額が贈与税課税対象となります(定期金に関する権利)。
上記の例ですと、1,000万円 – 110万円 = 890万円に対して、贈与開始時に贈与税が課税されます。
定期贈与とみなされないためには、「贈与契約書」を作成しておく方が安全です。
なお、毎年「同額の支払」だからといって「定期贈与」とみなされることはありません。
ただし、金額や時期は、毎年異なる方が、「その都度贈与額を決めて支給している」という説明は・・しやすいかなと思います。
贈与の事実を証明するために「贈与税の申告」しておくことが考えられます。
贈与税の申告をしておくと「贈与の事実」を証拠として残すことが可能です。
ただし、「贈与税申告書」は、あくまで贈与を受けた受贈者が作成するものであり、贈与者・受贈者双方の合意を示す証拠にはなりません。
贈与契約書は、贈与者と受贈者それぞれが署名押印をするため、双方が合意した根拠資料となります。
契約日付は必ず記載します。
上記の「贈与契約書」に基づき、実際の贈与は、通帳での履歴を残しておく方が安全です。
なお、通帳は、贈与用に新たに作ったものの場合は、贈与者が作成した(=名義預金)と指摘される可能性がありますので、注意が必要です。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4402.htm
YouTubeで分かる「年間110万円までの「贈与税非課税枠」とは?」
前回の「負担付贈与」の続きです。
今回は、賃貸アパートのオーナーが「アパートを贈与」する場合を考えます。
アパート経営をする場合、入居者から「敷金・保証金」を預かるケースがあると思います。
こういった「敷金・保証金」は、アパートオーナーの立場から見ると、将来入居者に返還しなければいけない「債務」となります。
この点、賃貸アパートを贈与する場合の「税金」は、入居者から預かった「保証金相当額」を、贈与者 ⇒ 受贈者に支払うかどうか?で金額に大きな違いが生じます。
賃貸アパートを贈与する場合は、贈与税等の税金が生じます。
この点、贈与者が贈与する際に、マンション入居者から預かっている「保証金相当額」を、受贈者に支払うかどうか?で「負担付贈与」の適用関係が異なってきます。
「保証金相当額」を贈与者 ⇒ 受贈者に支払わない場合、贈与者は、受贈者に「保証金返還義務」が引き継がれることになります。
この場合は、財産と債務をセットで贈与=「負担付贈与」となります。
負担付贈与の場合、対象不動産は、「相続税評価額」ではなく「市場価額(時価)」で評価され、通常の贈与よりも評価額が高くなります。
一方、「保証金相当額」を贈与者 ⇒ 受贈者に支払う場合は、受贈者の負担は相殺され、「負担付債務」ではなく「通常の贈与」として扱われます。
「敷金返還債務」を承継させる意図が、贈与者・受贈者間になく、実質的な負担はないと判断されるためです。
通常の贈与の場合は「相続税評価額」で評価され、「負担付贈与」よりも、評価額は低くなります。
父(贈与者) | 所得税課税なし (200万 – 3,000万)≦ 0 |
父は、取得価額3,000万円のマンションを、息子の債務負担額200万で売却したと考えます。 この場合は父に所得は生じないため、所得税はかかりません。 |
---|---|---|
息子(受贈者) | 贈与税課税 (5,000万 – 200万 – 110万)× 55% – 640万円 = 1,939万円 |
息子は、父から時価5,000万のマンションを「敷金債務200万」で購入したと考えます。 差額4,800万円は父親からの贈与とみなされ、贈与税が課税されます。 |
父(贈与者) | 所得税課税なし | この場合、息子の債務負担は相殺され、「負担付債務」ではなく「通常の贈与」として扱われます。 したがって、贈与側の父には所得税課税は行われません。 |
---|---|---|
息子(受贈者) | 贈与税課税 (3,500万円 ×( 1 – 借家権割合0.3 )= 2,450万 (2,450万円 – 110万)× 45% – 265万円 = 788万円 |
息子は、アパートの贈与を受けることになるため、「贈与税」が課税されます。 ただし、負担付贈与ではなく、「通常の贈与」と取り扱われるため、相続税評価額での評価が可能です。 |
敷金相当額を贈与者 ⇒ 受贈者に支払うするかしないか?で、受贈者に生じる「贈与税」の金額が大幅に違ってきます。
結論的には、敷金相当額の支払いをした方が税額は大幅に安くなります。
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/sozoku/14/08.htm
coming soon..
「住宅ローン付のマンションを子供に贈与したい!」というケースもあると思います。
こういった、「不動産」+「負債」をセットで贈与する行為は「負担付贈与」と呼ばれています。
「負担付贈与」の場合は、贈与を受ける側だけでなく、贈与する側にも税金が課税される場合がありますので、注意が必要です。
負担付贈与は、財産を贈与するだけでなく債務(借入金・預り保証金など)もセットで贈与することです。
通常の贈与と異なるのは、財産を与えるだけでなく、見返りとして「債務の負担」を約束する点です。
負担する債務は、「第三者」に対するものも含まれます。
父が子に財産を贈与する代わりに、母を介護してほしいなどです。
不動産を贈与する場合、通常の贈与の場合は「相続税評価額」で贈与税を計算するのに対し、負担付贈与の場合は、「通常取引価額」つまり市場価額で評価を行います。
不動産の「相続税評価額」は、概ね「時価の8割程度」の金額になりますので、「通常の贈与」よりも「負担付贈与」で財産を渡す方が評価額は高くなります。
通常の贈与 | 相続税評価額で評価 |
---|---|
負担付贈与 | 市場価格(時価)で評価 |
贈与の場合、贈与者には、所得税、贈与税とも課税されません。
受贈者は、土地相続税評価額4,000万円に対して、贈与税が課税されます。
(4,000万円 – 110万円)× 50% – 415万円 = 1,530万円
借金をセットで贈与する「負担付贈与」の場合、贈与者(父)は、3,000万円で取得した土地を、息子に借金免除額3,500万円で売却したと考えます。
したがって差額の500万円に対して「譲渡所得税」が課税されます。
500万 × 20.315%(5年超譲渡所得税率)= 101.5万円の所得税が発生します。
受贈者は、5,000万(時価)の土地を、借金引受額3,500万円で購入したと考え、差額の1,500万円は父親からの贈与とみなされ、贈与税が課税されます。
(1,500万円 – 110万円)× 40% – 190万円 = 366万円
メリット | デメリット |
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負担付贈与の場合は、贈与時の時価(市場価額)での取引とされ、贈与者、受贈者それぞれに税金が課税される可能性がある点に、注意が必要です。
ただし、贈与税は通常の所得税よりも税率が高いため、必ずしも「負担付贈与」の場合に、税金総額が高くなるとは限りません。
不動産を「贈与」するのか「負担付贈与」で渡すのか?は、対象不動産の時価や、借金等の金額を総合的に勘案し、税金総額をシミュレーションの上で意思決定することが大切となります。
個人でのマンション経営の場合は、「賃料収入」を受け取れば受け取るほど個人に帰属する「相続財産」は増加します。
一方、個人⇒法人化すれば、「賃料収入」は法人に帰属するため、その後の「相続財産」を抑えることが可能です。
今回は、不動産賃貸経営を「法人化」するメリット・デメリットにつき解説します。
将来の相続財産の圧縮 | 法人化により不動産を法人所有にした場合、その後の「賃貸収入」はすべて法人に帰属するため、「相続財産」は増加せず、相続財産圧縮につながります。 また、法人の株主をお子様等にすることで、法人にプールされる賃料収入を含めた財産評価は、すべて「お子様保有の株式評価」に変わります。 |
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不動産の評価方法が変わる | 法人化により不動産を法人所有にした場合、対象不動産の評価は「不動産評価」から「株式評価」へと変わります。 非上場株式の評価では、一般的に株価が低くなる「類似業種比準価額」を利用できる場合があり、一般的に不動産現物で保有するよりも評価を引き下げることが可能です。 ただし、設立後3年間は「純資産価額方式」での評価となり、評価額は高くなります。 |
遺産分割が容易になる | 一般的に、不動産現物は「遺産分割」が困難です。 しかし、法人化すれば不動産現物が「株式」という証券に変わります。 不動産と異なり、株式の場合は、株数に応じた分割が可能となるため、遺産分割が容易となります。 |
相続資金の確保 | 法人で「賃料収入」の資金をストックしておくと、将来、個人側で相続税等による資金負担が発生した場合も、法人が個人から財産を買い取ることで「資金の移動」が可能です。 また、法人自ら「自己株式」の買取も認められるため、株主への資金移動も可能です(みなし配当の論点はあり)。 |
税率が安くなる | 所得税率は累進課税(15~55%・総合課税)となりますが、法人税率は、年間所得800万以下で22~23%、800万超でも32~33%程度で固定されるため、所得が多い個人の場合は、法人化することで税率が低くなります。 |
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所得分散効果 | 法人の場合、自分に給料を支払うことが可能です。 給料を支払うことで、「給与所得控除」の存在により、所得分散による所得税税金圧縮効果があります。 なお、個人所得税の規定上、「青色専従者給与」の制度はありますが、自分への給料支払はできません。 |
法人契約の生命保険の加入 | 法人の場合は、加入できる保険の種類が増えます。 例えば、法人は、従業員を被保険者とした「死亡保険」への加入が可能です。 また、退職金も損金にでき、受取側は、退職所得控除、死亡退職金の場合は「相続税の非課税枠」があります。 |
永続的に継続可能 | 個人と異なり、法人には寿命がありませんので、永続的に継続が可能です。 また、法人の場合は、たとえ代表が死亡や病気で倒れても、他の方が代表に就任することで、法人の法的手続全般を継続することが可能です。 |
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銀行融資が有利 | 一般的に、個人よりも法人の方が「社会的信頼性」は高いため、法人の方が、銀行融資の審査の観点では有利になります。 |
個人から法人に不動産を移転する場合は、登録免許税(固定資産税評価額の2%)、不動産取得税(固定資産税評価額の3%)、消費税(取引価額10%)、印紙税などのコストが発生します。
また、消費税改正により、居住用賃貸不動産取得時の消費税は控除できなくなりましたので、取得法人側での消費税納税額は、改正前と比べて多くなります。
ただし、新設法人の場合は、消費税最大2年間免税のメリットがありますので、ある程度上記のデメリットは相殺されると思われます。
法人の場合は、社会保険の加入義務が生じます。
ただし、家族経営の場合は、社会保険加入により、個人が受け取る将来の年金額は増加するため、一概にデメリットとも言えません。
法人への不動産譲渡の際、「所得税」が課税される場合があります。
また、買い取る法人側では資金を準備する必要があります(同族関係者間の取引 = 適正な時価)。
ただし、帳簿価額(未償却残高)で売却すれば「譲渡損益」は発生しないため税額は生じません。
また、長期的な分割返済スケジュールを組むことで、一時的な「資金負担」の回避は可能です。
個人の場合、「不動産所得」の赤字は「給与所得等」との損益通算が可能ですが、法人の場合は損益通算の制度はありません。
ただし、法人の場合は「欠損金」が10年間繰越可能(個人の場合は3年)ですので、影響は限定されます。
法人設立には通常10万円~30万円の資金が必要になります。
また、毎年利益に関わらず課税される「均等割」(年7万円程度)が発生します。
その他、一般的に、法人の方が諸々の費用は高くなります。
税理士費用や、インターネットバンキング、振込手数料等への影響を想定しておく必要があります。
個人から法人に不動産を移転する場合、古くから保有する土地で「取得費が不明」な場合は、売却額の95%が課税対象となり、「譲渡所得課税」が生じるケースが多いです。
したがって、個人で「土地建物」を保有する場合は、「建物」のみを法人に譲渡する事例が多いです。
建物だけの売却であれば、法人に「未償却簿価」で売却すれば、基本的に所得税の課税関係は生じません。(未償却簿価 = 時価)
なお、建物だけを法人に譲渡する場合、「土地」に関しては、法人は個人から借りる立場となり、「借地権課税」の問題が生じます。
ただし「借地権課税」は、「土地の無償返還に関する届出書」を税務署に提出することで回避することができます。
しかも、この届出書を提出することで、個人が保有する土地の相続税評価は20%減少させることが可能です(法人は同額を純資産価額に加算)。
なお、多額の「繰越欠損金」を有する法人に建物を移す場合は、あえて「土地の無償返還の届出書」を提出せず、借地権を発生させる場合もあります。
この場合、法人側は「繰越欠損金」と「借地権受贈益」の相殺により、法人税は発生しません。
一方、個人側の土地の相続税評価は、「借地権割合」を控除した評価額まで大きく下がります。
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「遺言書」がある場合、残された遺族は、相続発生後、基本的に「その内容に従って」遺産を分割する必要があります。
しかし、場合によっては、遺言作成者よりも「遺言書」に記載された受遺者(財産を受け取る人)が先に亡くなってしまうケースもあります。
この場合、「遺言書」の効力はどうなるのか?迷いが生じます。
遺贈とは、「遺言」により、被相続人の財産を「特定の人」に無償で与えることをいいます。
「遺贈」は、法定相続人に限らず、法定相続人以外の方にも可能です。
例えば、波平さんが遺言書で、法定相続人ではない「マスオさんに全財産を渡す」と記載があれば「遺贈」となります(「遺留分」は無視します)。
しかし、こういった「遺贈」で、受遺者が先に亡くなってしまった場合は、原則として、その部分の遺言書は無効になります(民994条)。
遺言書で、法定相続人に「相続させる」と記載されている場合は、「遺贈」ではなく、「遺産分割方法の指定」であると解されています(平成3年4月19日最高裁 Q114参照)。
この場合に、遺言作成者よりも「相続人」が先に亡くなった場合、遺言書の効力はどうなるでしょうか?
民法994条は「遺贈」の規定のため、直接適用はできません。
この場合も、「遺言書」のその部分については、原則無効になります(平成23年2月22日最高裁)。
つまり、「遺贈」と同じ結論となります。
ただし、上記最高裁判決では、「遺言者が相続人の代襲相続人等に財産を相続させる意思があった」事情があれば「有効」となる旨示しています。
つまり、遺言書で、「相続人が先に死亡した場合にその子(代襲相続人)に全財産を譲る(=全財産を代襲相続させる)」旨の記載がある場合は「有効」になるということです。
例えば、波平さんが作成した「遺言書」で「サザエが先に死んだ場合は、タラちゃんに財産を譲る」というような内容の記載があれば・・「有効」ということですね。
上記例をもとに、結論をまとめると、以下の通りとなります。
遺言書 | |
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原則 | 「遺言書」の効力は無効。 したがって、遺言書の内容にあるサザエさんがもらうべきだった「全財産」を、タラちゃんが代襲相続することはできません。 ただし、将来波平さんが亡くなった場合、タラちゃんは、遺産分割協議によって相続人間で決定した相続分については代襲相続可能となります。 |
例外 | 遺言書に、「サザエが先に死亡した場合、タラちゃん(代襲相続人)に全財産を譲る」記載がある場合、「遺言書」の効力は有効となります。 この場合は、遺言書の内容通り、タラちゃんは波平さんの全財産を受け取ることができます。 |
あくまで無効となるのは、「先に亡くなった相続人がもらうはずだった部分」だけですので、その他の遺言書の効力は有効のままです。
上記のとおり、遺言作成者よりも先に「相続人」が亡くなった場合も、「遺言作成者が相続人の代襲相続人等に財産を相続させる意思があった」事情があれば「有効」となります。
したがって、仮にそういった意思がある場合は、「遺言書」に、その旨明確に記載しておくことが必要となります。
これは、「予備的遺言」と呼ばれ、遺言書で「相続人が先に死亡した場合の取扱いを指定しておく」ものです。
「予備的遺言」があれば、相続人が先に亡くなった場合の取扱いが明確となり、相続人間の争いもなくなりますので、非常に有用だと思います。
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相続税は、「亡くなった方」が保有する財産を引き継いだ「相続人」に課税される税金です。
しかし、亡くなった方の名義ではない財産も、「実質的に亡くなった方の財産とみなして」課税される場合があります。
その代表例が「名義預金」です。
今回は、税務調査でよく問題になる「名義預金」につき解説します。
名義預金とは、被相続人名義ではない預金通帳にもかかわらず、「被相続人の財産として相続税が課税」される預金のことです。
(具体例)
● | 亡くなった夫が、妻名義で預金していた場合、「実態としては、夫の収入から貯金している」ものとして、「名義預金」と認定される場合 |
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● | 親が子供の口座に、暦年贈与の枠内(毎年110万円)なら贈与税がかからないと判断して勝手に貯金している場合。「生前贈与」は贈与者と受贈者両方に「贈与を行う・受ける」意思が必要なため、贈与は成立しない。 |
相続税の税務調査では、かなりの割合で「名義預金」が問題になります。
しかし・・なぜ税務署はこういった情報を持っているのでしょうか?
実は・・税務署には法律上、金融機関を調査する権限が与えられています。
つまり、相続人の了解なく、被相続人や親族の預金通帳を閲覧できる権限を有しています
一般的に「資金移動調査」と呼ばれ、税務署は金融機関等の過去10年間の動きを把握しています。
お金の出入りの整合性、引出だけの資金の場合は、その「利用使途」の説明が求められます。
税務調査の際は、事前にそれらの「情報を入手済」である可能性が高いですので、通帳の大きな動きは、通帳等に内容を記載しておくことが望ましいです。
仮に、専業主婦の方が家計の財布を握っていたとしても、その収入源は夫である旦那様です。
奥様に収入がなければ、奥様名義の預金通帳は、名義預金と認定されるケースがあります。
税務署は、過去の申告書や年末調整、法定調書などの情報から、亡くなった方の財産、収入だけでなく、親族の財産・収入等の個人別データベースを持っていると思われます。
税務調査で「相続財産以外の所有財産」という書面の提出が求められる場合があります。
任意の提出書類となりますが、「相続財産以外のご自身の財産をすべて記載してください」という書類です。
書類の提出目的は、ずばり・・相続財産の漏れを確認するためです。
また、間接的に「名義預金」の存在を確認することも目的としています。
もし、この書類に、「名義預金」を記載しなかった場合は・・
「ご自身が把握していない財産」とみなされ、名義預金認定される、という恐ろしい書類になります。
名義預金の存在を隠した場合は「重加算税の対象」となります(相続税額の35%)ので、提出が求められた場合は、名義預金も含め、すべての財産を記載しておく必要があります。
「名義預金」と認定された預金残高は、「相続税の課税対象」となりますので、「遺産分割協議書」に記載し、誰が相続するか?を確定しないといけません。
つまり・・追加で「名義預金部分」だけ遺産分割を行う、ないし、金額によっては「遺産分割協議」をやり直す場合も生じます。
⇒相続税申告も修正申告となります。
例えば、孫名義の「名義預金」を親が相続する場合など、「名義人でない方」が相続する場合は、「解約や名義変更」に時間がかかるケースがあります。
金融機関によっては、名義預金を、一旦被相続人名義に変更し、そのうえで「遺産分割協議書」を確認の上、解約 or 名義変更手続きが行われる場合もあります。
贈与税は、6年 or 7年経過すると「時効」となります。
しかし、贈与の法律行為は「双方の同意」が要件となります。
この点、名義預金と認定される場合は、そもそも預金通帳の存在を知らない、管理していないケースですので、法律上の「贈与」は成立しません。
したがって、名義預金の場合は、「贈与での時効」の概念がありませんので、「贈与税」の時効は成立しない場合がほとんどです。
相続税額に大きな影響がありますので、名義預金と判定されないために、「自分が管理している預金口座」であることが証明できる「エビデンス」を残す必要があります。
具体的な対策は以下の通りです。
名義預金の存在に気付いた場合は、将来的な税務リスクがあることから、いったん「親名義」に戻します。そのうえで、財産を移すための方法としては、以下の方法があげられます。
名義預金をいったん親名義に変更して解消します。そのうえで、「贈与契約」を締結し、きちんとした形で生前贈与します。
名義預金解消後の金銭で受取人を相続人等とする「生命保険」に加入します。生命保険には500万円の非課税枠がありますので、実質無税で名義預金相当額を相続人等に資金移動できる効果があります。
遺言書を作成する場合、「~に遺贈する」と記載することもあれば、「~に相続させる」と記載することもあります。
これって・・どこが違うのでしょうか?
実は・・承継する財産が「不動産」の場合には、両者に大きな違いが生じます。
相続とは、被相続人の財産を、包括的に法定相続人が引き継ぐことをいいます。
一方、遺贈とは、被相続人の財産を、「遺言」により特定の人に無償で与えることをいいます。
つまり、遺言書を作成することで、「遺贈」は、法定相続人でない人、例えば親族ではない「第三者」に対しても可能、ということになります。
相続と遺贈の違いは、Q60をご参照ください。
「相続」が可能なのは、「法定相続人」のみで「第三者」は含まれません。
したがって、遺言で財産を承継する方が・・
では・・遺言書で財産を承継する方が「相続人」の場合、文言は「相続させる」「遺贈する」のどちらがよいのでしょうか?
「相続させる」という遺言は、「遺贈」ではなく、「遺産分割方法の指定」であると解されています
(最高裁判所平成3年4月19日)。
この判決により、承継する財産が不動産の場合は、「相続」と「遺贈」で、以下の点に違いが生じます。
「相続させる」という文言の場合は、相続開始時点でその不動産は「遺産分割」され、当然に所有権が移転することを意味します。一方、「遺贈する」という文言の場合は、相続開始時点では当然に所有権が移転するわけではなく、単に遺言者からの受遺者への財産遺贈義務を相続人全員が引き継ぐだけになります。
相続の場合 | 遺贈の場合 | |
---|---|---|
相続登記 | 単独で不動産登記が可能 | 他の法定相続人全員の協力必要(※) |
相続債権者への対抗 | 登記なくても相続債権者に対抗可 | 登記がないと相続債権者に対抗不可 |
借地権等相続の場合 | 賃貸人の承諾不要 | 賃貸人の承諾必要 |
(※)遺言執行者がいる場合は、遺言執行者と受遺者で手続可能
「遺贈」の場合は、不動産移転登記を行うにあたって、少なくとも相続人全員の「印鑑証明」が必要になりますので、手間が増えます。
また、他の共同相続人が勝手に不動産を第三者に譲った場合でも、相続の場合は「第三者に対抗可能」ですので、「第三者」に土地の返還を求めることも可能です。
遺言者よりも「受遺者」が先に死去した場合は、「代襲相続」にも影響があります。
遺贈の場合、受贈者が先に死去したケースでは遺贈の効力自体が生じません(民994Ⅰ)。
一方、「相続」の場合は、遺言書に「代襲相続の際の取扱い」を記載しておけば、「代襲相続」が可能と考えられています。
通常の登録免許税は、「遺贈」の方が「相続」よりも税率が高くなっています(遺贈:「1000分の20、相続:1000分の4」。
ただし、遺贈の場合でも受遺者が「法定相続人」の場合は、1000分の4で計算されますので、この点において違いはありません。
上記のとおり、「相続」の方が、
①手続の観点では「単独で登記」できる点で効率的ですし、
②権利保護の観点でも相続人に有利な権利が認められています。
したがって、結論的には、「遺言書」で財産を引き継ぐ相手が「法定相続人」の場合は、遺言書の文言は、「遺贈する」ではなく、「相続させる」と記載することをお勧めします。
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2020年7月10日より、法務局での「自筆証書遺言の保管制度」が始まりました。
「自筆証書遺言の保管制度」とは、「自らが手書きで書いた遺言書」を、法務局に預けることができる制度です。
法務局に預けることで、遺言紛失リスクの回避だけでなく、遺言の所在が明らかとなりますので、非常に有用な制度です。
今回は「自筆証書遺言の保管制度」を、「公正証書遺言」と比較して解説します。
比較すると以下の通りとなります。
メリットがある方は、「グレー」にしています。
自筆証書遺言保管制度 | 公正証書遺言 | |
---|---|---|
作成者 | ご自身(代理人×)(※1) |
|
証人の立ち合い | 不要 | 2人以上必要 |
遺言の様式 | 法務省令で決められている | 特になし |
出張サービス | 必ず本人が出向く必要あり (代理人不可、介添え程度はOK) |
公証人出張可能(別途手数料) |
費用(実費のみ)(※2) | 3,900円 (保管料はなし) |
5万円程度~ (遺産金額その他条件で異なる) |
保管期間 | 現物は、遺言者の死後50年 (スキャン画像データは150年) |
原則20年(ただし、実質は半永久的) |
紛争の可能性(※3) | 普通 | 低い |
検認の有無(※4) | 不要 | |
原本の返却 | 不可(謄本のみ) | |
遺言者死亡前の検索 (相続人等関係者のみ) |
不可(死亡後に検索可能) |
自筆証書遺言保管制度では、誰かが「遺言書の閲覧」や「遺言書情報証明書」の交付を受けた場合、その他全ての相続人等に「遺言書が保管されている旨」の通知が行われます。
遺言書保管申請の際に、「死亡時通知の申出」をすることが可能です。
これは、遺言者が死亡したときに、法務局から、あらかじめ指定された相続人等のうち、1名のみに遺言書保管の旨の通知が行われます(実際の運用は令和3年度以降予定されています)。
「公正証書遺言」の場合は、公証人が1つずつ内容を確認していくため、内容の正確性及び遺言者の遺言能力が担保されます。
しかし「自筆証書遺言書保管制度」は、あくまで遺言書を保管する制度であり、「遺言書」の内容の正確性及び遺言者の遺言能力を担保するものではありません。
法務局で預かる際に確認するのは、外形的な確認(民法第968条に適合するか、本人の自署か程度)だけですので、後日の紛争防止という観点では、「公正証書遺言」の方が優れています。
本人が、法務局に事前予約を行います(電話・窓口・ネット予約も可能)。
なお、法務局へは、「無封状態」の遺言書原本、その他添付書類を持参します。
提出した書類に不備がなければ、その当日「保管証」が交付されます(後日郵送も可)。
遺言者の氏名・出生の年月日・遺言書保管所の名称・保管番号が記載されています。
相続人や受遺者等は、相続開始後(遺言者死亡後)に、初めて「遺言書の閲覧請求」や「遺言書情報証明書の入手」が可能です。
相続開始前に、相続人や受遺者などが遺言書の閲覧請求等を行うことはできません。
生前に閲覧請求ができるのは、遺言作成者本人のみです(代理人不可)。
自筆遺言書に代わる書面となりますので、不動産登記手続や預貯金などの名義変更等の相続手続に利用することができます。
相続人・受遺者・遺言執行者等、遺言者と特定の身分関係等がある方のみ請求可能です。
保管制度による保管申請をしても、別段、ご家族などには通知はされません。
なお、保管制度を活用しない場合は、原則通り「家庭裁判所の検認」が必要となり、検認後は「遺言の有無」が相続人全員に通知されることになります(検認済通知書)。
遺言書は何回も書き換えができ、作成日が新しいものを有効と扱います。
また、いつでも、その保管の撤回を申し出ることができます(代理人×)。
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