Q6【遺留分とは】遺留分の割合は?兄弟姉妹に認められるのか?/遺留分侵害額請求権の時効・放棄は可能か?/相続税申告時の留意事項

 最終更新日:2022/11/22 閲覧数:5,218 views


 
ご自身が保有する財産は、原則として「遺言」を作成することにより、自由に分配することが可能です。
例えば、法定相続人への相続分をそれぞれ決定しておくこともできますし、第三者に「遺贈」をすることも可能です。
(遺言がない場合は、相続人全員の話し合いによる「遺産分割協議」で決定します)。
 
しかし、もし、亡くなった方が好きな人にだけ配分してしまったら、その他の法定相続人は「相続財産」を全く引き継ぐことができない可能性があります。
こういった場合、「相続財産」を生活基盤として予定していた法定相続人は、生活できなくなってしまいます。
 

そこで、民法上、相続財産のうち「最低減認められる保証分(権利)」として「遺留分」が認められています(民法1028条)。

 

1. 遺留分が認められている方

遺留分は、すべての相続人に認められているわけではありません。
遺留分が認められるのは、配偶者、子供、父母、子の「代襲相続人」となります。
 
兄弟姉妹には、遺留分が認められていません。
また、兄弟姉妹の代襲相続人にも、当然「遺留分」は認められません。
その他、相続放棄、相続欠格者、相続廃除者にも、遺留分は認められていません。
 

2. 遺留分侵害額請求と時効

(1)遺留分侵害額請求

遺留分はあくまで「権利」ですので、自動的に遺留分が相続できるわけではなく、主張しなければいけません。
逆に言うと、遺留分が侵害されていても、本人が納得していたら「遺言書通りの相続」も可能ということになります。

遺留分の主張は、「遺留分侵害額請求」という形で行います。実務上は、「内容証明郵便」で実施するのが一般的です。
 

(2)遺留分侵害額請求の時効

「遺留分侵害額請求」には、「時効」があります。
遺留分侵害を知っている場合は、非常に短期間となりますので注意が必要です。

 

遺留分が侵害されていることを知っている場合 相続開始及び遺留分が侵害されている贈与又は遺贈があったことを知った日から1年
知らない場合 相続開始の日から10年

 

3. 遺留分の割合は?

「遺留分」の割合は、基本的に、法定相続割合の2分の1となります。
遺留分と法定相続割合(カッコ書き)を比較すると、以下の通りとなります。
なお、必ずしも法定相続割合の1/2にならない場合がありますので、イレギュラーな箇所は赤字で記載しています。
 

【法定相続人のパターンごとの遺留分割合】

法定相続人のパターン 配偶者 兄弟
配偶者のみ 1/2(1)
配偶者と子(直系卑属) 1/4(1/2) 1/4(1/2)
配偶者と親(直系卑属) 1/3(2/3) 1/6(1/3)
配偶者と兄弟 1/2(3/4) ×(1/4)
子供のみ 1/2(1)
親のみ 1/3(1)
兄弟のみ ×(1)

 

4. 遺留分の計算方法・精算方法

(1)遺留分算定時の価格

遺留分は、以下の式をもとに算定されます。

 
相続財産の価額 - 相続債務の額 + 贈与の価額
 
●金額は、「相続発生時の価格」で決定することが一般的です。
●不動産等の時価は、相続税評価額(路線価等)とは限りません。実勢価額等を基準に決定する場合もあります。
●贈与の価額とは、①相続開始前1年間にされた贈与②相続開始前10年間にされた相続人に対する「特別受益」(婚姻・養子縁組又は生活の資本」としてされた相続人に対する贈与)③遺留分権利者に損害を加えることを知って行った贈与(期間制限なし)です(民法1044条、1045条)。
●相続税上の債務控除と異なり、葬式費用は差し引けません。被相続人の借金や医療費など「被相続人の負債」のみを差し引きます。

 

(2)遺留分精算方法

2019年7月の民法改正により、遺留分の精算は、「金銭」が原則となりました。例外的に、当事者間の合意がある場合は現物による精算も可能です。
 

5. 遺留分の放棄

(1)家庭裁判所の許可が必要

遺留分は、「放棄」することも認められていますが、放棄できる方は、配偶者と第一順位の推定相続人のみとなります。

ただし、相続開始前に遺留分を放棄する場合は、放棄強要を回避するため、放棄する本人が家庭裁判所に申し立て、許可が必要となります(相続開始後の遺留分放棄については、家庭裁判所の許可は不要)。
 

(2)相続放棄との違い

遺留分放棄は相続放棄とは全く異なります。相続放棄の場合は、最初から相続人ではなかったこととなりますので、遺産分割協議には参加できず、被相続人にの債務も引き継ぎません。一方で、たとえ「遺留分の放棄」を行ったとしても、相続人であることには変わりありませんので、遺産分割協議には参加しますし、被相続人の債務の支払いを免れることはできません
 

6. 遺留分侵害額請求がある場合の相続税申告

遺留分侵害額請求がある場合でも、相続税申告書は、「未分割申告」ではなく、原則として、遺言通りに相続税申告を実施します。一方、相続税の申告・納税期限内に遺留分侵害額請求による金銭の授受が行われた場合は、当該金銭の授受を反映した金額で相続税申告を行います。

 
その後、「遺留分」が決まった時点で、原則として、相続税の更正請求(請求された側)、修正申告(請求した側)を行います(更正の請求をしない場合など、当事者間の合意がある場合は、手続不要の場合があります)。
 
なお、当該修正申告は、法律上予定されているものとなりますので、「加算税」などは課税されません
 

7. 夫婦のみで子供がいない場合

子供がいない夫婦の場合、親が既に死亡している場合を前提にすると、法定相続人は、配偶者と兄弟となります。
こういったケースは、配偶者と被相続人の兄弟姉妹に面識のないケースが多く、実務上、相続手続が煩わしくなる場合が多いです。
 
この点、兄弟姉妹には「遺留分」が認められていませんので、例えば、お子様のいない夫婦の場合は、遺産分割協議でもめないよう、「配偶者だけに相続する遺言」を残しておくのも選択肢の1つかと思われます。兄弟姉妹は遺留分がありませんので、「配偶者だけに相続する」という「遺言」は、遺留分を侵害することにはなりません。

 

8. YouTube

 
YouTubeで分かる「最低限認められる相続割合は?」
 

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