Q111【二世帯住宅】区分所有登記から共有登記への変更で小規模宅地等の特例の適用は可能か?合併登記 等価交換の具体例

 最終更新日:2023/12/01 閲覧数:16,337 views

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小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等の特例)とは、一定要件を満たす自宅土地を相続する場合、土地の相続税評価額が80%減額できる制度です。当該制度は、建物名義が、被相続人以外でも適用が可能です。
 
ただし、「二世帯住宅」の場合は、建物名義が「区分所有登記」か「共有名義」かによって、特例の適用関係が変わってきます。建物名義が「共有名義」の場合は、土地全体につき小規模宅地等の特例の適用が可能ですが、「区分所有登記」の場合は、土地全体につき「小規模宅地等の特例」の適用ができません
 
そこで今回は、小規模宅地等の特例を受けるために、「区分所有名義の建物」を「共有名義」に変更する方法や、留意事項につき解説します。

 

1. 小規模宅地等の特例と共有名義・区分所有登記の関係

小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等の特例)は、建物名義が、被相続人以外でも適用が可能です。ただし、二世帯住宅で、建物の所有が、親と子で「区分所有登記」されている場合は、土地全体につき、小規模宅地等の特例を適用することができません。一方で、建物の所有が、親と子の共有名義の場合は、土地全体につき、小規模宅地等の特例の適用が可能です。詳しくは、Q27をご参照ください。
 

 【具体例】
  • 一軒家の1Fには母、2Fには子供家族が居住している(父は既に死亡)。
  • 土地は、母名義。子は、使用貸借(無償)で、母から土地を借りているものとする。
  • 将来、母死亡時の相続時に、土地に関して「小規模宅地等の特例」(特定居住用宅地等の特例)は適用できるか?
    (その他の要件はすべて満たしているものとする。)

(1)建物登記が母と子供の区分所有登記の場合(1F母 2F子)

 
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この場合、建物は、母と子「区分所有」となっているため、原則として生計一とは取り扱われません。また、子は、母と「非同居親族」となり、小規模宅地等の要件である「家なき子要件」も満たしません。
したがって、将来お子様が、母の土地を相続する場合、土地全体につき、小規模宅地等の特例の適用はできません

 

(2)建物登記が 母と子の共有登記の場合

 


 
建物が「共有名義」の場合は、各人の所有区分がなくなるため(2人で全体を共有しているだけ)、1棟の建物全体が本人居住建物、子供は同居親族と取り扱われます
したがって、共有名義の場合は、土地全体につき、小規模宅地等の特例の適用が可能です。

 

2. 「区分所有登記」から「共有名義」への変更は?

同じ家に住んでいながら、「区分所有登記」では特例が適用できず、「共有登記」であれば特例の適用ができるのであれば、区分所有から共有名義に変更することも1つの選択肢になると思います。
そこで、実務上の「区分所有」から「共有名義」への変更方法につきお伝えします。

(1)建物合併登記

登記簿上、2つ以上の家屋番号がある建物を、1つの家屋番号の建物にまとめる登記です。土地家屋調査士が行う「表題部の変更登記」です。
この「合併登記」を行うためには、合併したい建物につき、所有者が同じであるか、共有の場合には、それぞれの持分が同じである必要があります。
したがって、上記例のように、1Fと2Fがそれぞれ区分所有登記されている場合は、所有者が別々ですので、この状態では合併登記できません。
 

(2)建物の一部をそれぞれ一方に売却

1Fと2Fの建物どちらも、「それぞれの持分が同じ共有状態」にすることができれば、上記の合併登記は可能です。そこで、1F,2Fとも、それぞれの建物の一部を、親⇒子、子⇒親に売却して、「それぞれの持分が同じ共有状態」にそろえる作業を行います。
 

(3)所得税上の「固定資産の等価交換」の活用

ただし、建物売却には所得税が課税されますので、売却時に「所得税」が課税されないよう、所得税上の「固定資産の交換の特例」を活用します(原則として、等価交換は、税務上、売買とみなされ、「所得税」が課税されます)。
 
所得税上、1年以上保有する固定資産につき、同じ種類の資産と交換した場合は、譲渡がなかったものして所得税が課税されない特例です(双方の時価差額が高い方の固定資産時価の20%以内)。

 
以下具体例で解説します。
 

3. 等価交換の具体例

 
(例)
● 土地  母単独所有名義
● 1F建物 母区分所有 1F建物の時価は30,000
● 2F建物 子区分所有 2F建物の時価は20,000(土地につき、子は母から使用貸借)
● 1Fと2Fを所得税上の「等価交換の特例」を用いて、「それぞれの持分が同じ共有状態」にして合併登記を行う。
● 土地・建物とも1年以上所有しているものとする。

 

(1)建物の一部を「等価交換」で売却し、どちらも同じ共有持ち分にする

1F、2Fの区分所有登記でのそれぞれの建物評価額は、30,000:20,000ですので、最終的に、1F、2Fの建物どちらもそれぞれ「3:2」の共有持分になるように建物を交換すれば、「等価交換」となり、所得税は課税されません
 
● 母⇒子に渡す1F持ち分 30,000×2/5=12,000(残 18,000)
● 子⇒母に渡す2F分 20,000×3/5 =12,000(残 8,000)
 

区分所有時 渡す分 もらう分 共有後
30,000(1F) △12,000(1F) +12,000(2F) 30,000(1F 18,000+2F 12,000)
20,000(2F) △12,000(2F) +12,000(1F) 20,000(1F 12,000+2F 8,000)
合計 50,000 24,000 24,000 50,000

 

(2)所有権移転登記 + 合併登記

法律上は、所有権の移転となりますので、この時点で、所有権移転登記(司法書士)を行います。
この状態で、1F、2Fそれぞれの建物の共有持ち分は3:2になりましたので、合併登記が可能です。
1件の建物にするため、表題部の変更登記を行います。
 

(3)結論

合併登記後の「1つの建物」の最終共有持分は、母は3/5、子は2/5となります。
この結果、母所有土地全体につき、小規模宅地の特例の適用が可能となります。

 

4. 税務署から否認?留意事項

上記の通り、所得税計算上は、所得税が課税されることなく、区分所有⇒共有登記への変更は可能です。
ただし、以下の点に留意が必要です。

 

登記・司法書士等への手数料 所有権移転登記、合併登記は登録免許税や、司法書士、土地家屋調査士に対する手数料が発生する
固定資産税 区分所有の方が、それぞれの㎡数が少ない結果、「課税標準額が1/6」になる軽減税率が適用されるケースがある。
所得税の確定申告 固定資産の交換特例を適用した場合でも、所得税の確定申告は必要。特例が適用できる場合でも、交換差金を受けた場合は、交換差金は所得税の課税対象(譲渡所得)。
税務署から否認される可能性 相続開始直前に区分所有登記を解消した場合などには、相続税回避のために行われた行為として、税務署否認される可能性あり

 
上記のほか、例えば、母が老人ホームに入所している場合などは、「特例の適用」は、入所直前の状況に基づいて判定するため、入所直前時点で建物区分所有登記であれば、その後に共有名義に変更しても特例の適用はできません。

 
上記を総合的に判断の上、共有名義にする方がメリットが多い場合には、選択肢の一つになるかと思われます。
 

5. 参照URL

(固定資産交換特例)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3511.htm

 

6. Youtube

 
YouTubeで分かる「二世帯住宅」
 

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