2020年7月10日より、法務局での「自筆証書遺言の保管制度」が始まりました。
「自筆証書遺言の保管制度」とは、「自らが手書きで書いた遺言書」を、法務局に預けることができる制度です。
法務局に預けることで、遺言紛失リスクの回避だけでなく、遺言の所在が明らかとなりますので、非常に有用な制度です。
今回は「自筆証書遺言の保管制度」を、「公正証書遺言」と比較して解説します。
目次
1. 公正証書遺言との比較
比較すると以下の通りとなります。
メリットがある方は、「グレー」にしています。
自筆証書遺言保管制度 | 公正証書遺言 | |
---|---|---|
作成者 | ご自身(代理人×)(※1) |
|
証人の立ち合い | 不要 | 2人以上必要 |
遺言の様式 | 法務省令で決められている | 特になし |
出張サービス | 必ず本人が出向く必要あり (代理人不可、介添え程度はOK) |
公証人出張可能(別途手数料) |
費用(実費のみ)(※2) | 3,900円 (保管料はなし) |
5万円程度~ (遺産金額その他条件で異なる) |
保管期間 | 現物は、遺言者の死後50年 (スキャン画像データは150年) |
原則20年(ただし、実質は半永久的) |
紛争の可能性(※3) | 普通 | 低い |
検認の有無(※4) | 不要 | |
原本の返却 | 不可(謄本のみ) | |
遺言者死亡前の検索 (相続人等関係者のみ) |
不可(死亡後に検索可能) |
(※1)
- 「保管申請の手続書類」に関しては、司法書士が代理作成可能。
(※2)
- どちらも「依頼時」にお金がかかるだけで、保管にかかる「料金」は発生しません。
(※3)
- 「公正証書遺言」の場合、本人の口述内容を公証人が確認する点で、内容の精度は高まります。
一方、「自筆証書遺言保管制度」の場合、法務局では「形式確認のみ」で、「内容の確認」までは行われません(本人自署の確認や、本人確認程度)。
(※4)
- 「検認」手続とは、遺言書の存在を裁判所で明らかにすることで、偽造や変造を防止するための手続です。
通常、「公正証書遺言書以外の遺言書」は、相続開始後遅滞なく、家庭裁判所で「検認」を受ける必要があります(民法1004条)。
ただし、法務局の「自筆証書遺言」の場合は「検認不要」となりますので、手間が省けます。
なお、検認手続は、遺言書の有効性を判定するものではありません。
2. 自筆証書遺言保管制度の特徴
(1) 関係遺言書保管通知
自筆証書遺言保管制度では、誰かが「遺言書の閲覧」や「遺言書情報証明書」の交付を受けた場合、その他全ての相続人等に「遺言書が保管されている旨」の通知が行われます。
(2) 死亡時の通知
遺言書保管申請の際に、「死亡時通知の申出」をすることが可能です。
これは、遺言者が死亡したときに、法務局から、あらかじめ指定された相続人等のうち、1名のみに遺言書保管の旨の通知が行われます(実際の運用は令和3年度以降予定されています)。
(3) 遺言の「内容確認」までは行われない
「公正証書遺言」の場合は、公証人が1つずつ内容を確認していくため、内容の正確性及び遺言者の遺言能力が担保されます。
しかし「自筆証書遺言書保管制度」は、あくまで遺言書を保管する制度であり、「遺言書」の内容の正確性及び遺言者の遺言能力を担保するものではありません。
法務局で預かる際に確認するのは、外形的な確認(民法第968条に適合するか、本人の自署か程度)だけですので、後日の紛争防止という観点では、「公正証書遺言」の方が優れています。
3. 自筆証書遺言保管制度の流れ
(1) 事前予約
本人が、法務局に事前予約を行います(電話・窓口・ネット予約も可能)。
(2) 必要書類の準備
① 住民票
-
本籍地の記載ある住民票(取得後3ヵ月以内)1通
② 本人確認書類
-
マイナンバーカード、運転免許証、パスポートなど顔写真付き証明書で有効期限内のものを1点
③ 遺言書の保管申請書
- 法務省ウェブサイトからダウンロード可能(「受遺者等・遺言執行者等欄」や「死亡時の通知等欄」など、自分に関係ないページもすべて提出必要)
- 「保管申請書」に関しては、司法書士による代理申請可
④ 自筆証書遺言書
-
「法的に有効な遺言」である必要があるため、以下の点に留意します。
- 遺言者が全文自筆(PC不可)。財産目録等は、登記簿や通帳等添付もOK。
- 日付記載
- 氏名を自書
- 押印(認印もOKですが、実印が好ましい)
- 相続財産、財産を取得する方を特定しているか。
なお、法務局へは、「無封状態」の遺言書原本、その他添付書類を持参します。
(3) 保管証の受領
提出した書類に不備がなければ、その当日「保管証」が交付されます(後日郵送も可)。
遺言者の氏名・出生の年月日・遺言書保管所の名称・保管番号が記載されています。
4. 遺言書情報証明書(本人死亡後)
相続人や受遺者等は、相続開始後(遺言者死亡後)に、初めて「遺言書の閲覧請求」や「遺言書情報証明書の入手」が可能です。
相続開始前に、相続人や受遺者などが遺言書の閲覧請求等を行うことはできません。
生前に閲覧請求ができるのは、遺言作成者本人のみです(代理人不可)。
(1) 遺言書情報証明書の効果
自筆遺言書に代わる書面となりますので、不動産登記手続や預貯金などの名義変更等の相続手続に利用することができます。
(2) 証明書を取得できる方
相続人・受遺者・遺言執行者等、遺言者と特定の身分関係等がある方のみ請求可能です。
(3) 入手の際に必要な書類
- 法定相続情報一覧図の写し or 原戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の住民票(作成後3か月以内)
- 請求人の住民票(受遺者や遺言執行者が請求する場合)
- 法定代理人が請求するときは、戸籍謄本や資格証明書類(作成後3か月以内)
(請求人が法人の場合、代表者事項証明書(作成後3か月以内))
5. その他
(1) 法務局に保管すると他の相続人に知られてしまう?
保管制度による保管申請をしても、別段、ご家族などには通知はされません。
なお、保管制度を活用しない場合は、原則通り「家庭裁判所の検認」が必要となり、検認後は「遺言の有無」が相続人全員に通知されることになります(検認済通知書)。
(2) 書き換え・内容変更・撤回は可能?
遺言書は何回も書き換えができ、作成日が新しいものを有効と扱います。
また、いつでも、その保管の撤回を申し出ることができます(代理人×)。
6. YouTube
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