生前贈与については、年間110万円までの「贈与税非課税枠」があります。
しかし・・死亡直前に贈与をした場合、相続税逃れの観点から、「贈与」がなかったものとされる制度があります。
「相続開始前3年以内生前贈与加算」と呼ばれています。
目次
1. 生前贈与加算って?
例えば、相続直前に「贈与」して相続税が安くなるのなら、みなさん贈与しますよね?
このような「駆け込み贈与」を防止するために設けられた制度です。
生前贈与加算の制度は、「相続税」の制度です。「贈与税」の制度ではありません。
(1) どんな制度?
亡くなった方から、生前に「贈与を受けた場合」に、贈与を受けた人の相続税の課税価格に加算する制度です。
「相続開始前3年以内の贈与」が対象です。
つまり、相続開始前3年内に贈与を受けたとしても、贈与がなかったものとして「相続税」の対象になるんですね。
例えば、お亡くなりになる直前に、相続人に現金110万円を渡した場合、贈与税は課税されませんが・・相続税計算上は、「贈与前の金額」に戻される結果、「相続税」が課税されることになります。
この持ち戻しは、たとえ、生前贈与時に贈与税を支払っていても、同様です。
(応当日) 例えば、令和6年10月30日に死亡した場合は、令和3年10月30日が「応当日」となります。
(2) 既に贈与税を支払っている場合は?
生前贈与で加算される財産につき、生前贈与時に、既に「贈与税を支払っている」場合もあると思います。
これらの財産が、「生前贈与加算」されると、贈与税に加えて・・さらに相続税がかかることになってしまいますね。
これでは「二重課税」になってしまいますので、既に支払った贈与税については、相続税の計算上控除できますので、ご安心を。
(3) 暦年贈与非課税枠110万の枠内の贈与も対象?
基礎控除額110万円以下の財産であっても、「相続開始前3年内」であれば、加算の対象となります。
2. 具体例
●母と法定相続人子供1人(20歳以上)
●令和4年~令和6年に、母から子供に毎年500万ずつ贈与した(500万円×3年=1,500万円)。
●上記贈与前の母の財産は1億円とし、令和7年に母が死亡した。
●簡便的に、母死亡時の財産は、1億円から、上記贈与分のみ減少しているものとする(=8,500万円)。
●相続財産は、法定相続人が全額相続するものとする。
(1)ケース1 生前贈与加算がないケース
(2)ケース2 生前贈与加算があるケース
結論を先にお伝えしておくと、生前贈与加算がないケース1の方が、300万程度もトータル税額が安くなります。
3. ケース1(生前贈与加算がないケース)
(1) 生前贈与時の贈与税の計算
(500万円-110万円(基礎控除))×15%-10万円 =48.5万円
48.5万円 ×3年 =145.5万円
(2)相続税の計算
①課税価格の合計額(遺産総額)
1億円‐500万円×3年=8,500万円
②基礎控除額
3,000万円 + 600万円 × 1人(法定相続人)=3,600万円
③課税遺産総額(① ‐ ②)
8,500万円 - 3,600万円 = 4,900万円
④相続税総額の計算
相続税額 | 計算式 | 子供分 | 780万円 | 4,900万円 × 1/1 (法定相続割合)= 4,900万円 4,900万円 × 20% – 200万円 = 780万円 |
---|
⑤各人の相続税額
相続税額 | 計算式 | |
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子供分 | 780万円 | 780万円 × 1/1(実際相続割合) = 780万円 |
(3) トータルの税額
贈与税145.5万円+相続税780万円 =925.5万円
4. ケース2(生前贈与加算があるケース)
(1) 贈与税の計算
(500万円-110万円(基礎控除))×15%-10万円 =48.5万円
48.5万円 ×3年 =145.5万円
(2)相続税の計算
①課税価格の合計額(遺産総額)
1億円(生前贈与1,500万円はなかったものとされるため)
②基礎控除額
3,000万円 + 600万円 × 1人(法定相続人)=3,600万円
③課税遺産総額(① ‐ ②)
1億円 - 3,600万円 = 6,400万円
④相続税総額の計算
相続税額 | 計算式 | 子供分 | 780万円 | 6,400万円 × 1/1 (法定相続割合)= 6,400万円 6,400万円 × 30% – 700万円 = 1,220万円 |
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⑤各人の実際相続税額
相続税額 | 計算式 | |
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子供分 | 1,010万円 | 1,220万円 × 1/1(実際相続割合) = 1,220万円 1,220万円 -145.5万円(生前贈与税支払分マイナス) =1,074.5万円 |
(3) トータルの税額
贈与税145.5万円+1,074.5万円 =1,220万円
5. 3年以内生前贈与加算の対象は?
(1) 対象となる方
- 亡くなった方から「相続開始前3年以内」に贈与を受けた方
- 相続や遺贈により財産を取得している方
遺贈とは、「遺言」によって財産を贈与することです。つまり、「相続人や遺言による受贈者」に贈与した場合だけ持ち戻しされます。逆に言うと・・例えば、孫など、法定相続人でない人(遺言による遺贈の方は×)などへの贈与は、「生前贈与加算」の対象となりません。
そう考えると・・孫への生前贈与 ⇒「生前贈与加算の対象外」⇒ 駆け込み贈与可能なので、相続税対策になりますね!
ただし、孫でも加算されるケースがありますので、後ほど解説します。
(2) 対象となる財産
生前贈与は、「現預金」だけに限りません。不動産や株式など「換金性」があるものも、すべて「生前贈与の対象」となります。贈与財産の「贈与時の価額」が加算の対象となります(相続時ではない)。
6. 孫が3年内生前贈与加算になる場合も・・
孫は相続人の地位を有しませんので、孫が相続開始前3年以内に贈与を受けても、原則として相続により財産を取得しないため、3年以内生前贈与加算の適用を受けることはありません。
しかし・・孫でも例外的に「3年内生前贈与加算」の適用を受ける場合があります。以下のケースです。
① | 代襲相続人として財産を相続する場合 | 孫が代襲して相続人の地位を有することにより、相続により財産を取得したときは、生前贈与加算の適用を受けます。 |
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② | 遺言に基づき財産を取得する場合 | 被相続人の遺言に基づき、遺贈により財産を取得した場合、生前贈与加算の適用を受けます。 |
③ | 生命保険金の受取人となっている場合 | 被相続人が保険料を払い込んでいた生命保険契約の受取人として保険金を受け取ったときは、遺贈により財産を取得したとみなされ、生前贈与加算の適用を受けます。 |
上記の③は、よく間違える論点ですので注意しましょう。
なお、「相続人ではない」お孫さんが死亡保険金等を受け取る場合は、生命保険の非課税枠(500万×相続人の人数)の適用もありませんので、ご留意ください。
7. 加算されない例外は?
上記の生前贈与加算ですが、「納税者の財産保護」の観点から、例外的に以下の場合は加算されません。
加算されないということは相続税がかからないのでお得ですね!
(令和3年税制改正大綱、内閣府第4回税制調査会資料(2020年11月13日より)
現在の日本では生前贈与加算の期間は「3年」ですが、諸外国ではかなり長い年度の贈与が「相続税」の対象となっています(アメリカは生前贈与すべて、ドイツは10年、フランスは15年)。したがって、将来的には日本の「生前贈与」の期間を長くするなどの改正があると思われます。
8. 参照URL
(贈与財産の加算と税額控除)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4161.htm
(贈与税率)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm
(相続税率)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm
9.YouTube
YouTubeで分かる「相続開始前3年以内の贈与に相続税課税」