相続人が未成年者の場合や、障害をお持ちの場合、相続税が安くなります。
未成年者控除・障害者控除という制度です。
制度概要 | 20歳になるまでの年数分(※)、相続税が安くなる制度 |
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適用対象者 | 20歳未満の法定相続人(日本に住所がある方) |
控除額 | (20歳-相続開始時の年齢)×10万円 |
(※)1年未満の端数は、1年となります。
相続人が未成年者であるケースは、限られた場面が多いですが、「孫を養子に入れた」場合などは、未成年者控除が利用できることが多いですね。
制度概要 | 85歳になるまでの年数分(※)、相続税が安くなる制度 |
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適用対象者 | 85歳未満の法定相続人で障害を持つ方(日本に住所がある方) |
控除額 |
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(※)1年未満の端数は、1年となります。
「障害者控除」が適用できる「障害の種類」は、多岐にわたっています。
詳しくは国税庁HPをご確認ください。
一般的には、「身体障害者手帳」などによって判断されます。
「未成年者控除」や「障害者控除」が適用できるにもかかわらず、相続財産及び相続税額が少なく、本人から引き切れずに「税額控除が余ってしまうケース」があります。
こういった場合は、余った部分を「扶養義務者の相続税」から差し引くことが可能です。
(扶養義務者って??)
配偶者又は民法で規定する親族(直系血族、兄弟姉妹及び三親等以内親族のうち一定の者)を指します。
未成年者控除、障害者控除どちらも、以下の点に留意する必要があります。
「相続又は遺贈により、財産を取得したこと」が要件となります。未成年者や障害者が、相続財産を全く取得しなかった場合には、本人だけでなく、扶養義務者からも控除することができませんので、注意しましょう。
なお、金額基準はありませんので、1円でも遺産を取得していれば適用可能です。
過去の相続で未成年者控除・障害者控除を適用している場合は、 今回の控除額が制限される場合があります。
未成年者や障害者である相続人が「相続放棄」を行った場合でも、相続税計算上は、「相続放棄がなかったもの」として計算しますので、未成年者控除・障害者控除を行うことが可能です。
(No.4164 未成年者の税額控除)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4164.htm
(No.4167 障害者の税額控除)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4167.htm
今回は「相続放棄」と「債務控除・未成年者控除等」の関係を解説します。
債務控除は、被相続人の借金や医療費等を相続人が負担していた場合、相続税計算時に控除することができる制度です。
相続放棄した場合は、プラスの財産もマイナスの財産も引き継がないため、「債務控除」を差し引くことはできません。
葬式費用は、相続税上「債務控除」に該当しますので、相続税計算時に控除することができます。
では・・相続放棄があった場合はどうでしょうか?
被相続人が負担した「葬式費用」は、被相続人が残した「負債」とは性格が全く別物となりますので、相続放棄者が支払った葬式費用については、差し引くことができます。(相続税基本通達13-1)
相続放棄者は、財産を取得しないのに・・なんでこんな制度があるの?と思われるかもしれません。
実はこの制度、被相続人が、相続放棄者に対して「特定遺贈」を行っていた場合を想定しています。
「相続放棄」と「遺贈」の制度は全く別の制度なので、相続放棄を行っても、別途特定遺贈により「遺贈財産を取得」することは可能です。
この「特定遺贈財産」には、他の相続財産と同様に、相続税が課税されます。
そこで、上記規定により、相続放棄者が「葬式費用」を支払っている場合には、遺贈財産から葬式費用を控除することができますよ!っていうロジックなんですね。
未成年者控除は、相続人が未成年者の場合、満20歳までの残年数につき、1年あたり10万円を相続税額から控除できる制度です。障害者控除は、相続人が障害者の場合、満85歳までの残年数につき、1年当たり10万円(特別障害者は20万円)を相続税額から控除できる制度です。
上記控除は、未成年者本人や障害者本人の税額から引ききれなかった場合、扶養義務者(他の相続人)の相続税額からも差し引くことができます。
未成年者や障害者である相続人が「相続放棄」を行った場合でも、相続税計算上は、相続放棄がなかったものとして計算しますので、未成年者控除・障害者控除を行うことが可能です。
短期間に相次いで相続が起こった場合、何度も相続税が課税されると、結構負担が大きくなりますよね。
そこで、こういった相次いで相続が起こった場合の税額を軽減してくれる制度が、「相次相続控除」です。
お亡くなりになった方が、「過去10年以内」に相続税を支払っていた場合、既に支払った相続税の一部を「今回の相続税」から控除できる制度です。
(イメージ図)
例えば、お父さんが亡くなった後、10年以内にお母さんが亡くなった場合・・
お母さんが既に支払った相続税(第一次相続)の一部を、お子さんの相続税計算(第二次相続)時に控除してくれる制度です。
一般的に、お父さんとお母さんは「歳が近い」と思いますので、意外と使える制度ですよ!
よく間違えがちなのは・・
第一次相続でお父さんが亡くなった際、お母さんが配偶者控除などで「相続税を支払っていない場合」はどうでしょう?
この場合は、たとえ第一次相続でお子さんが相続税を支払っていたとしても、相似税額控除は利用できません。
なぜなら、第一次相続でお母さんは相続税を支払っていないので、要件を満たさないからですね!
相次税額控除は、第一次相続で、今回亡くなった方が相続税を支払っている場合ですので、注意しましょう。
例えば、お父さんが亡くなって(第一次相続)、1年以内にお母さんが亡くなり、今回、お子さんが相続(第二次相続)した場合を前提にします。
(※)1を超える場合は、1となります。
A | 第一次相続で、お母さんが支払った相続税額 |
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B | 第一次相続で、お母さんが取得した財産(債務控除後) |
C | 今回の相続の遺産総額(債務控除後) |
D | 今回の相続で、お子さんが取得した財産(債務控除後) |
E | 第一次相続から第二次相続までの経過年数(1年未満切捨) |
難しそうな式ですが、分解すると・・以下となります。
B – A・・・お母さんが、第一次相続で取得した財産(相続税差引後)です。
C・・・今回の第二次相続の遺産総額です。
つまり、第一次相続で取得した財産(税引後)(B – A)のうち、今回の第二次相続でも引き継いだ遺産総額(C)は何%あるのか?を計算しています。
これに第一次相続の相続税額(A)を掛けます。つまり、第一次相続で支払った相続税のうち、上記の%部分(今回もダブっている部分)を計算しています。
今回の第二次相続の遺産総額(C)のうち、今回お子さんが取得する割合です。
1年~10年の間で、年数が経過するにつれ、相次相続控除の額が低くなる式です。
(1年未満は切り捨て ⇒ 納税者有利)
この例はちょっと極端ですが・・
なお、相次相続控除には「当初申告要件」がありませんので、修正申告や更正の請求でも可能です。
また、遺産分割が完了していなくても適用OKです。
相続税は、財産を取得する人によって、最終的に算出された「相続税額」に20%加算される場合があります。
「相続税の2割加算」と呼ばれるものです。
例えば、「お孫さん」などが財産を取得する場合などは、「相続税の2割加算」の対象となります(相 18 条)。
この制度がある理由は、以下の通りです(お孫さんが、財産を取得する場合を例にします)。
加算の適用のない方 | 加算対象者 |
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養子で「法定相続人」の数にカウントできるのは、被相続人に実子がいる場合は1人、いない場合は2人となります。
孫などが相続すると「2割加算」となりますので、税負担が多くなることが想定されます。
しかし、第二次相続まで考慮すると、「相続税総額」はお得なケースもあります。
なぜなら、確かに2割加算にはなりますが、お子さんから孫への相続税を回避できるからです。
つまり、「第一次相続」でお子さんが相続した分は、いずれお孫さんが相続する時(第二次相続)がやってきます。
この「第二次相続」の際にかかる相続税と、今回2割加算で支払う相続税、どちらが安く収まるのか?ということです!
500百万円 – 36百万円(基礎控除)= 464百万円
464百万円 × 50% – 42百万円 = 190百万円
190 百万円 × 120% = 228百万円(2割加算後)
① 第一次相続の相続税(お子さん)
190百万円(上記(1)2割加算前と同額)
② 第二次相続の相続税(お孫さん)
500百万円 – 190 百万円 = 310百万円 (第一次相続でお子さんが引き継いだ、税引後の財産)
310百万円 – 36百万円(基礎控除)= 274百万円
274百万円 × 45% – 27百万円 = 96.3百万円
① + ② = 190百万円 + 96.3百万円 = 286.3百万円
このケースでは、親から孫へ全額相続(ケース1)の方が、たとえ2割加算があったとしても、相続税総額は安くなります。
前回、お伝えした通り、配偶者が相続する場合には、「配偶者控除」がありますので、相続税が大幅に軽減されます(相続税法19条)。
ただし・・配偶者控除があるからといって、「配偶者が全額相続した方がいい」・・とは限らないんですね!
第二次相続まで考慮した場合、トータルの相続税額が増加するケースがありますので、今回はその「事例」を作成しました。
お父さんとお母さんは、年齢が近いことが一般的です。
つまり、お父さんが亡くなった場合(第一次相続)、遠くない将来、お母さんが亡くなって第二次相続が発生することが想定されます。
そして、第二次相続の方が、第一次相続よりも相続税が高くなるケースがあるんです。
理由は以下の通りです。
つまり・・第一次相続で相続する財産は、「第二次相続のことまで考慮」して決めておいた方が、税額が安くなるケースがあるんですね。
① 母・・・配偶者控除全額適用により、相続税はゼロとなります。
② 子・・・お子さんは、第一次相続税は相続しませんので、相続税はゼロとなります。
③ 第一次相続の相続税額・・・ゼロ円となります。
母は、父から相続した100百万円 + 母固有の財産100百万円 = 200百万円の遺産を残しています。
この場合、第二次相続時の相続税額は?(子)
(200百万円 – 36百万円(※))× 40% – 17百万円 = 48.6百万円
(※)基礎控除 = 30百万円 +(6百万円 × 法定相続人1人)= 36百万円
0円 + 48.6百万円 = 48.6百万円
① 母
(100百万円 – 42百万円(※))× 1/2 × 15% – 0.5百万円 = 3.85百万円 ⇒ 0円
⇒配偶者控除利用で、相続税額は最終的にゼロ
② 子
(100百万円 – 42百万円(※))× 1/2 × 15% – 0.5百万円 = 3.85百万円
③ 第一次相続の相続税額
0円 + 3.85百万円 = 3.85百万円
(※)30百万円 +(法定相続人6百万円 × 2人)
母は、父から相続した50百万円(税額ゼロ)+ 母固有の財産100百万円 = 150百万円の遺産を残しています。
この場合、2次相続の相続税額は?(子)
(150百万円 – 36百万円(※))× 1/1 × 40% – 17百万円 = 28.6百万円
(※)30百万円 + (法定相続人6百万円 × 2人)
3.85百万円 + 28.6百万円 = 32.45百万円
ケース1よりもケース2の方が、相続税額は安く収まりました。
この例は、第一次相続で「配偶者が全額財産を引き継ぐのがベストではない」ことを示しています。
配偶者控除があるからといって、第一次相続で「全額相続財産を引き継ぐのがベストではない」ケースがあるということです。
相続税は、相続の都度かかります。目の前の税額だけでなく、次の相続(第二次相続)も考慮の上、第一次相続で相続する財産を決めておくことが、結果的に相続税の節税につながるということですね!
第一次相続で配偶者の取得分を決める際には、第二次相続も考慮した税額のシミュレーションをお勧めします!
相続税上、配偶者が相続する場合には、税額が軽減される制度があります。
なぜなら、配偶者が相続する場合は、「相続後の生活を保障」してあげないといけないからですね(相続税法19条)。
配偶者が「実際」取得する遺産額が、法定相続分以内であれば、相続税がかからない制度です。
繰り返しますが、「実際取得する遺産額が法定相続割合を越えない」限り、相続税はかかりません。
まとめると以下の通り。 ① < ②にならない限り、相続税はかかりません。
法定相続人 | 配偶者 法定相続割合 |
配偶者 法定相続分① |
配偶者 実際相続分② |
相続税 課税対象 |
---|---|---|---|---|
配偶者のみ | 1 | 240百万円 | 240百万円 | ゼロ |
配偶者と子供 | 1/2 | 120百万円 | 120百万円 | ゼロ |
配偶者と父母 | 2/3 | 160百万円 | 160百万円 | ゼロ |
配偶者と兄弟 | 3/4 | 180百万円 | 180百万円 | ゼロ |
また、たとえ「法定相続分」を超えて相続した場合でも、配偶者の生活保障という観点から、実際課税価額が1億6,000万円までは相続税がかからない配慮がされています。
計算式は、少しややこしいのですが・・上記式の意味は、以下の通りです。
(配偶者の「実際課税価格」が1億6千万 or「法定相続分」より少ない場合)
⇒相続税はかからない
(配偶者の「実際課税価格」が1億6千万 or「法定相続分」より多い場合)
⇒相続税がかかる。
法定相続人 | 配偶者 法定相続割合 |
配偶者 法定相続分 |
配偶者 実際相続分 |
相続税 課税対象 |
---|---|---|---|---|
配偶者のみ | 1 | 240百万円 | 240百万円 | 0円 (240百万円 – 240百万円)(※1) |
配偶者と 子供 |
1/2 | 120百万円 | 240百万円 | 80百万円 (240百万円 – 160百万円)(※2) |
配偶者と 父母 |
2/3 | 160百万円 | 240百万円 | 80百万円 (240百万円 – 160百万円)(※3) |
配偶者と 兄弟 |
3/4 | 180百万円 | 240百万円 | 60百万円 (240百万円 – 180百万円)(※4) |
(※1) 法定相続分240百万円 > 160百万円
(※2) 法定相続分120百万円 < 160百万円
(※3) 法定相続分160百万円 = 160百万円
(※4) 法定相続分180百万円 > 160百万円
下記の要件、すべてを満たさなければいけません。
戸籍上の配偶者であること | 内縁関係は×です。 |
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申告期限までに遺産分割が完了(※) | 申告期限までに「遺産分割完了」していることが要件となります。 |
申告書を税務署に提出 | 配偶者控除の結果、納付続税がゼロになった場合でも「申告書提出」は必要です。 |
(※)ただし、以下の例外があります
この場合、一旦は「配偶者控除の適用を受けない相続税申告書」を計算して納付します。
その後、税務署に更正請求を行い、還付してもらう手順となります。
なお、配偶者控除は、「期限後申告」でも適用できます。
例えば、一度相続税申告を行った後、新たな遺産が見つかった場合に「修正申告」を行うケースもありますが、この場合でも「配偶者控除」を受けることは可能です。
例えば・・誰かにお金をあげた場合・・贈与税がかかります。
このように生前に自分の財産を渡すことを「生前贈与」といいます。
生前贈与は、「現預金」だけに限りません。
不動産や株式など「換金性」があるものも、すべて「生前贈与の対象」となります。
ただし、生前贈与については、年間110万円までは税金がかかりません。
一定限度の「贈与税の非課税枠」が認められているんですね。
「相続税」の制度です。「贈与税」の制度ではありません。
亡くなった方から、生前に「贈与を受けた場合」に、贈与を受けた人の相続税の課税価格に加算する制度です。
「相続開始前3年以内の贈与」が対象です。
例えば、相続直前に「贈与」して相続税が安くなるのなら、みなさん贈与しますよね?
このような「駆け込み贈与」を防止するために設けられた制度です。
(イメージ図)
つまり、相続開始前3年内に贈与を受けたとしても、贈与がなかったものとして「相続税」の対象になるんですね。
例えば、お亡くなりになる直前に、相続人に現金を渡したとしても、相続税計算上は、「贈与前の金額」に戻されてしまいます。
この持ち戻しは、たとえ、生前贈与時に贈与税を支払っていても、戻されます。
ただし、「相続人・受贈者以外」に贈与した場合は、持ち戻しされません。
例えば、孫など、法定相続人でない人(遺言による遺贈の方は×)などは、「生前贈与加算」の対象となりません。
逆に考えると、孫への生前贈与 ⇒「生前贈与加算の対象外」⇒ 駆け込み贈与可能なので、相続税対策としていいかもですね。
贈与財産の「贈与時の価額」が評価額となります。相続時ではありません。
上記の生前贈与加算ですが、「納税者の財産保護」の観点から、例外的に。以下の場合は加算されません。
加算されないということは相続税がかからないのでお得ですね!
生前贈与で加算される財産につき、生前贈与時に、既に「贈与税を支払っている」場合もあると思います。
これらの財産が、「生前贈与加算」されてしまうと、贈与税に加えて、さらに相続税がかかることになってしまいますね。
これでは二重課税になってしまいますので、既に支払った贈与税については、相続税の計算上控除できますので、ご安心を(加算税・延滞税は除く)。
基礎控除額110万円以下の財産であっても、「相続開始前3年内」であれば、加算の対象となります。
相続時精算課税制度を選択している方は、上記3年内に関わらず、それまで相続時精算課税が適用されてきた「贈与財産全額」が相続税の課税価格に加算されます。