遺言書には、大きく、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言の3つの種類があります。
そのうち、①「自筆証書遺言」は、遺言者本人自身が自筆で作成する遺言書です。
目次
1. 自筆証書遺言のメリットデメリット
メリット | デメリット |
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2. 要件
① 本人が手書きで記載
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自筆証書遺言は、すべて遺言者本人が書く必要があります。
一部でも代筆があると無効となります。
録音テープ、録画なども認められません。
② 日付を記載
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日付の記載がなければ無効となります。
日付は自筆で、遺言書を作成した年月日を記入します(日付スタンプ×、〇年〇月吉日×)。
③ 署名をする
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自筆によるフルネームでの署名がなければ、無効となります。
署名は必ず遺言者1名のみとされており、夫婦2人共同で遺言を行うことはできません。
④ 捺印する
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捺印は認印でもよいですが、後々のトラブルを考えると実印が良いと思います。
遺言書が数枚にわたる場合は、割印があるほうがベター(有効要件ではない)。
⑤ 相続人や相続財産は正確に記載
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遺言書は、相続人及び相続財産が特定できるように正確に記載します。
例えば、「妻に家を相続させ、長男に預金を相続させる」は、あいまいなため×です。
具体的で、客観的な記載が必要です。
- 用紙や筆記用具に制約はありません。とはいっても、紙は高耐久性の高いもの、筆記具は、後から改ざんされない万年筆などがベターです。
- 形式は縦書き、横書きどちらでもOK。
- 遺言書は封筒に入れ、封をしておくのがベスト。
- 第三者に保管してもらう方が安全(弁護士など)。
- 裏面には「本遺言書は、私の死後、開封せずに家庭裁判所で検認を受けてください」など、と記載しておくと明確。
⑥ 訂正する場合
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できる限り書き直した方が安全ですが、「訂正」する場合は、必ず、訂正場所に二重線を引き、押印の上、正しい文字を記載します。
そのうえで、遺言書の余白に「〇行目〇文字削除〇文字追加」と自書で追記、署名を行います。
3. 最近の法令改正
以下の改正があり、「自筆証書遺言」のデメリットが解消されつつあります。
(1) 財産目録PC可(民法968条2項)
2019年の改正により、相続財産をまとめた「財産目録」は、PCでの作成が認められることになりました。
また、「通帳コピー」や「不動産登記簿謄本」を添付資料することも認められました。
ただし、「財産目録」以外は、従来通りすべて自筆で書く必要があります。
(2) 2020年「自筆証書遺言の保管制度」
2020年7月より、法務局で「自筆証書遺言」を保管してもらえる制度が始まりました。
これにより、遺言の紛失等のリスクが大幅に軽減されます。
こちらは、次回Q113で、詳しく説明します。
4. 留意事項
(1) 遺留分に配慮する
遺留分とは、遺言でも奪われない最低限度の「相続財産」に対する取り分の権利です。
兄弟姉妹には認められていません。
遺留分を侵害された相続人は、相続開始後、他の相続人に対して、「遺留分減殺請求」を行うことができます。
なお、法律上、「遺留分を侵害する遺言」そのものは「有効」ですが、相続人間でもめる可能性が高いため、遺留分に配慮のうえ遺言書を作成することが大切です。
(2) 遺言執行者の選任
遺言執行者は、遺言内容を正確に実行する人です。
遺言書で「遺言執行者」を指定しておくと、執行者が相続人代表として手続を進められるため、相続人が複数の場合などは、署名押印手続等の点で時間短縮になります。
また、相続人間で協力が得られない場合でも、不動産登記を進めることが可能な点や、他の相続人による財産の処分などを抑止することも可能です。
(3) 検認手続き
公正証書遺言と異なり、自筆証書遺言は誰も確認していないため、相続発生後、家庭裁判所に「検認」の請求が必要になります。
自筆証書遺言を保管する人は、遺言者の死後、遺言書を家庭裁判所に提出し、家庭裁判所が提出された「遺言」の検認を行います。
検認とは、遺言書の情報を確認して遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。
検認は、「法律上有効に成立したかどうか」の手続であり、遺言の内容の妥当性を確認するものではありません。
5. 自筆証書遺言の記載例
(※1) | 戸籍通りに記載します。 妻、息子などは、あいまいなため×です。 |
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(※2) | 「相続させる」と明記します。 「引き継ぐ」「取得させる」などあいまいな表現は×。 |
(※3) | 土地と建物を分けて物件を特定します。 登記簿どおりに記載(現住所地ではない)。 |
(※4) | 預貯金は、銀行名、支店名、預金種類、口座番号を記載して特定します。 金額は、相続時点では変動している可能性が高いため、通常は記載しません。 |
(※5) | 相続人以外の方に財産を遺贈する場合は、「遺贈する」と記載します。 |
(※6) | 遺言書の「記載漏れ対策」として、当該文言を入れておくと、紛争防止になります。 |
(※7) | 遺言執行者を定めておくと、遺言の実行がスムーズに短縮化されるメリットがあります。 |
(※8) | 将来は予測できませんので、不測の事態に備え、相続人が自分より先に亡くなった場合をあらかじめ記載することも可能。(予備的遺言)。 |
(※9) | 付言事項は、自由に記載できます。 「家族に対する感謝の気持ち」や、「自分の望み」などを記す場合が多いです。 法的な効力はありませんが、読んだ人を納得させる効果があります。 葬儀の方法などを記載する場合もあります。 |
(※10) | 日付は正確に記載し、自筆により署名します。 |
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