Q57 【借地権】権利金設定時の法人税上の借地権評価・計算方法/個人の借地権収入に係る所得税・贈与税の取扱いは?

 最終更新日:2023/07/10 閲覧数:4,771 views

 
例えば、個人の土地上に「同族法人」が建物を建設する場合、「借地権認定課税」の論点が生じます。
通常、「借地権認定課税」は、相続時に論点になることが多いですが、借地権認定課税は、相続以前の「借地権設定時」の「権利金収入」にかかる「法人税課税」の側面も有します。
 

そこで今回は、権利金設定時の「法人税上」の借地権認定課税・評価方法をご紹介し、関連論点として、「個人」の場合の、借地権設定時の課税関係をお伝えします。

 

1. 法人税上の借地権認定課税とは?

他人の土地を建物建設目的で賃貸する場合、通常は、当事者間で「権利金」の授受が行われます。
しかし、「権利金」は一般的に高額になるため、例えば、オーナー個人の土地を「同族法人」に賃貸する場合は、「権利金の授受」を行わないケースがあります。
この場合、法人税上は、原則として時価で取引を行う前提があるため(法法22条)、法人は、権利金部分を「無償」でもらったものとして、「受贈益認定」が行われます。これが「借地権認定課税」です。
 

 

2. 法人税上の借地権の評価方法

借地権設定時の、法人側の「借地権受贈益額」の計算は、「法人税基本通達」に基づいて行います。
この点、「借地権評価額」の計算は、法人税法と相続税法では若干異なります
法人は、利益を追求するため「常に時価」で取引を行いますが、相続税の対象となる個人は利益を目的としない主体のため、そもそもの前提が異なるためです(相続税上の借地権の価額は、「相当地代通達」に基づいて評価します)。

 

3. 借地権認定課税が行われる場合の借地権評価

権利金の授受がある場合は、法人税上、受取側は益金の額に算入し、支払側は、無形固定資産(借地権)として計上します。借地権(無形固定資産)は、土地と同様の扱いとなりますので、償却はできません。
 
一方、「権利金の授受」がない場合、①相当の地代を収受している②「土地の無償返還の届出書」を提出している場合を除き、借地権認定課税が行われます。
 
法人税上、、以下の計算式で算定した金額を借地権として計上します。
 
38-2

 

土地の更地価格 通常取引価額(時価)の他、相続税評価額や、その評価額の過去3年間の平均額などもOK
権利金を一部授受している場合などは、その額を控除する。
 相当地代の年額 土地の更地価額 × 年6%
上限 上記計算式で算定された「借地権評価額」が、通常収受すべき権利金の額(土地の更地価額 × 借地権割合など)を超える場合は、その通常収受すべき額が上限。

 

4. 地代の改訂

「相当の地代」を収受している場合は、借地権設定時に「借地権認定課税」の論点は生じません。
相当の地代は、①地代の改訂を行う方法と②地代の改訂を据え置く方法の2棲類があります。
 
①の場合、借地権の価額は、常にゼロになります。
一方、②の場合、契約当初はゼロ評価の借地権となりますが、地価上昇分だけ借地人に帰属します。当該土地を将来売却した場合、借地権相当額に対応する売却収入は借地権者に帰属します。したがって、仮に地主が譲渡代金の全額を収受した場合は、借地人⇒地主へ借地権相当額の贈与が認定され、借地権者には「借地権売却益」と地主への「寄付金」が認定されます。
 

5. ご参考~個人の場合の課税関係~

借地権設定時の「権利金収入」に関して、法人ではなく個人の場合は、所得税、贈与税の論点となります。
課税関係をまとめると、以下となります。

(1) 権利金の授受がある場合

権利金の授受がある場合の課税関係は以下となります。

 

貸主側
(所有者側)
権利金の額が時価の1/2超の場合は譲渡所得、1/2以下の場合は不動産所得となります。
譲渡所得=譲渡収入-(土地の取得費 × 権利金額 / 権利金の額+底地価格(※)
(※)年額地代 × 20倍でもOK
借主側
(借地権者側)
権利金を支払った側は、無形固定資産(借地権)として計上します。土地と同様の扱いとなりますので、償却はできません。

 

(2) 権利金の授受がない場合(相当の地代、無償返還届出なし)

 

貸主側
(所有者側)
地主が個人の場合は、課税関係は生じません。借地権の設定行為は「資産の譲渡」に該当しないため、みなし譲渡所得課税(時価の2分1未満で譲渡)の適用はありません(所得税基本通達59-5)。
借主側
(借地権者側)
地主が個人の場合は、原則として贈与税(みなし贈与)が課税されますが、無償や固定資産税相当の場合は、使用貸借となるため、贈与税はかかりません。
地主が法人の場合は所得税(賞与or一時所得)が課税されます。

 

6. 法人税上の借地権評価額算定

 

土地の自用地評価額(相続税評価額) 32,000千円
借地権割合 60%
実際地代の年額 900千円

●借地権の取引慣行がある地域だが、権利金の授受は行っていない
●法人税上の借地権を算定する際の「土地の更地価格」は、「相続税評価額」で行うものとする。
 

(1) 相当の地代と実際の地代の比較

32,000千円 × 6% = 1,920千円(相当の地代) > 900千円(実際の地代)
⇒ 借地権認定課税が行われる
 

(2) 通常収受すべき権利金(上限)

32,000千円 × 60% = 19,200千円
 

(3) 法人税上の借地権の評価額

32,000千円 × (1 - 900 / 1,920) = 17,000千円
 

(4) 通常収受すべき権利金と比較

19,200千円 (通常収受すべき権利金)< 17,000千円(上記金額)
⇒ 17,000千円

 

7. 参照URL

(No.5730 権利金の認定課税について)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5730.htm

(No.5732 相当の地代及び相当の地代の改訂)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5732.htm

 

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