生命保険契約に関する権利は、あくまで生命保険の「契約者」が保有しています。
ただし、税法上は、生命保険の契約者が誰であるか?ではなく、「誰が保険の負担をしているか?」を重視して、相続税の課税関係が決められています。
1. 保険契約者=負担者の場合(本来の相続財産)
Q11のおさらいとなります。同じ例にしますね。
お父さんが、お母さんを被保険者(被相続人 ≠ 被保険者)として、死亡保険金を自分で支払っています(受取人はお父さん)。
つまり、「お母さんが亡くなった時のために」、お父さんが死亡保険金を支払っている場合です。
この保険では、お父さんが亡くなった時点では、お母さんはまだ「生命保険金」を受け取ることができません。
なぜなら被保険者であるお母さんは「まだ生きている」ので、この時点では「保険支払事由は発生していない」からですね。
ただし、保険契約者はお父さん(負担者もお父さん)なので、お父さんの保有していた「生命保険契約に関する権利」は、被相続人(お父さん)の純粋な財産 =「相続財産」となります。
この財産は、他の財産と取扱いは同じですので、「本来の相続財産」と呼ばれます(「みなし相続財産」と対比して、この呼び方がされます)。
「本来の相続財産」は、通常通り「遺産分割協議」によって誰が相続するか?が決定されます。
2. 保険契約者 ≠ 保険負担者の場合(被相続人が負担)(みなし相続財産 相続税法3条1項3号)
次に、保険契約者≠保険負担者の場合を考えます。
一般的に、保険料は契約者が負担することが通常ですが(保険契約者 = 保険負担者)、契約者以外の方が保険料を負担するケースもありえます。
例えば、保険料はお父さんが負担するが、法人割引等などで安くなる等で「奥さん」が契約者となるケースなどです。
この保険でも、上記1同様、お父さんが亡くなった時点では、お母さんはまだ「生命保険金」を受け取ることができません。
なぜなら被保険者であるお母さんは「まだ生きている」ので、この時点では「保険発生事由は発生していない」からですね。
上記1と異なるのは、保険契約者がお母さんなので、「生命保険契約に関する権利」は、お母さん自身が保有しています(保険契約の解約や受取人変更ができるのはあくまで契約者)。
つまり、この権利は、お父さんの財産ではないので、「相続財産」にはなりません。
しかし、冒頭にお伝えした通り、税法上は、誰が保険料を負担しているか?を重視して課税関係が決まります。
つまり、今回のケースでは、実際に保険料を負担しているのはお父さんであることを重視して、過去に父が払っていた保険払込分は、相続によって「お母さんに財産が移る」とみなされ、相続税の課税対象とされます(相続税法 3条1項3号)。
この財産は、「本来の相続財産」ではないため、「みなし相続財産」と呼ばれます。
「みなし相続財産」は、遺産分割協議の対象ではなく、お母さん固有の財産となります。
(贈与ではないの?)
本来は、保険契約者が支払うべきものを、契約者ではない「お父さん」が支払っているので、支払った時点で「お母さんへの贈与」ではないか?という風にも考えられます。
しかし、少なくとも相続税上は、この事象を贈与とは取り扱っておらず、出口課税(みなし相続財産)として取り扱っています。
逆にいうと、「贈与」と取り扱われない以上、「暦年贈与110万の非課税枠も主張できない」んですよね。ここ注意です。
例えば「お母さん契約分をお父さんが負担しているが、年間110万の範囲内だから大丈夫!」と考えている方は注意です。
暦年贈与110万の非課税枠は主張できません。
最終的には「みなし相続財産」として課税されちゃいますので。
ですので、こういったトラブルがないよう、「契約者」と「保険料負担者」は合わせておくことが無難だと思います。
例えば、保険負担者 = 契約者にしたうえで、保険の枠外で、お父さんがお母さんに「暦年贈与110万円」の枠内で贈与しておけば、少なくとも資金の出どころはお父さんにできますので。
被相続人 | 相続人 | ||
---|---|---|---|
ケース1 | 保険料負担者 = 保険契約者 |
被保険者 | 本来の相続財産 |
ケース2 | 保険料負担者 ≠ 保険契約者 |
被保険者 = 保険契約者 |
みなし相続財産 |
3. 保険契約者 ≠ 保険負担者の場合(相続人が負担)
上記2の「逆」の場合はどうでしょうか?
保険契約者は被相続人で、負担が相続人の場合です。
この場合は、契約者はお父さんですので、「生命保険契約の権利」はお父さんにありますが、資金はお母さんが保険料を負担していますので、課税関係は生じません。