Q49【わかりやすく】限定承認の利用場面は?相続放棄との違い?/みなし譲渡所得課税との関係は?

 最終更新日:2022/04/16 閲覧数:6,472 views

 

お亡くなりになられた方が借金だらけの場合、「相続放棄」を行うことで、借金を相続しないことが可能となります。
 
しかし、お亡くなりになられた方が、借金だけでなく、自宅などプラスの財産もお持ちの場合はどうでしょうか?
「相続放棄」を行うと、借金だけでなく、自宅などプラスの財産も相続することができなくなってしまいます。
プラスの財産だけは引き継ぎたい!と考える方もいるかもしれません。
 
そこで、「限定承認」という制度があります。

1. 限定承認とは?

限定承認とは、被相続人の「プラスの財産の範囲内で」借金を相続する制度となります。
簡単に言うと、「相続財産を換金して負債の返済に充てるが、それ以上は返済義務を負わない、逆に負債を返済して余った分は相続できる」という点で、相続人を保護する制度となります。
 
相続放棄の場合は、財産も債務も一切引き継ぎませんが、限定承認の場合は、借金を一部相続する代わりに、プラスの財産の相続が可能となりますので、例えば自宅だけを確保したい場合などに利用されます。
限定承認は、「相続放棄」と「単純承認」の中間的な位置づけの制度となります。
 
(イメージ図)

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2. 相続放棄との違い

相続が発生した場合は、相続発生後3か月以内に、単純相続、相続放棄、限定承認のいずれかを選択します(3か月以内に何もしなければ、「単純承認」とみなされます)。
 
限定承認と相続放棄は、どちらも、相続開始を知ってから3ヶ月以内に、家庭裁判所に申述を行う点は共通していますが、以下の点で異なります。

 

限定承認 相続放棄
相続する債務の範囲 相続財産の範囲内 一切引き継がない
家庭裁判所への申し立て 相続人全員で申述 相続人単独で可能
手続の複雑性 非常に複雑 家庭裁判所への申し立てのみで簡単

 
①相続人全員で申述
法律関係が複雑になる観点より、一部の人のみ「限定承認」することは認めらておらず、「家庭裁判所で、法定相続人全員で申述」が必要となります。相続人のうち一人でも単純承認すると不可能となりますので、限定承認を行うには、他の相続人全員が限定承認するか、他の相続人全員に相続放棄してもらう必要があります。
 
また、限定承認の手続きが終わるまでに、少しでも遺産を処分してしまうと自動的に単純承認をしたものとみなされ、他の相続人も含めて限定承認はできなくなりますので、注意が必要です。
 
②手続が非常に複雑
また、申述後に、相続財産の清算(公告・催告、競売による換価)を行い、相続債権者や受遺者に弁済を行う点、手続きは非常に煩雑になります。この点で、実務上、「限定承認」は、あまり利用されていないのが現状です。
 

3. 限定承認の利用場面

(1) 自宅など、相続財産の中に引継ぎたい資産が含まれている場合

相続放棄を行うと、借金だけでなくプラスの財産も相続できません。例えば、被相続人と同居していた相続人は、相続放棄を行うと、自宅を明け渡さないといけないことになります。
この点、「限定承認」すれば借金は引き継ぐ代わりに、プラスの財産である自宅は引き継げる場合があります。
また、遺産の中に、先祖代々の家宝や、希少価値のある資源などが含まれている場合も、限定承認を行うことで、家宝や宝石などは引き継げる可能性があります。
 

(2) 財産や債務が不明な場合

被相続人が残した財産が「プラス」なのか「マイナス」なのか?わからない場面では、「限定承認」が有効に機能します。
なぜなら、わからないまま「単純承認」や「相続放棄」をしてしまうと、想定外の借金を背負うリスクや、逆に、莫大な資産が存在していた場合には、大きな機会損失が発生してしまうリスクがあるためです。
限定承認では、最終的に債務よりもプラスの財産が上回る部分は引き継げますので、上記のリスクを和らげる効果があります。
 

(3) 実務上自宅を確保できるのか?

通常、限定承認をした場合、「相続財産を全て換価して債権者に返済し清算」することになりますが、限定承認をした相続人は、例外的に、財産を競売処分せずに、相続人が取得できる手続が民法上定められています(民932)。
具体的には、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価額を支払うことができれば、競売なく、財産を取得することが可能です(先買権)。
 
ただし、現実的には、相続人自身が不動産を買い取る資金を準備する必要があり、実務上は資金の確保が難しいと思われます。
 

4. みなし譲渡所得税

限定承認が行われると、相続時に被相続人から相続人に「すべての資産」の譲渡があったとみなされます(みなし譲渡所得課税・所得税法59条Ⅰ①)。
譲渡価格は「相続開始時の時価」とされており(所60Ⅱ)、相続時点で含み益がある資産については、この時点で所得税が発生します。例えば、取得価額の低い古い自宅などは、含み益が生じる可能性が高いです。
 

(1)  租税債務は切り捨て

みなし譲渡所得課税は、亡くなった方の所得税(準確定申告)として課税される点がポイントとなります。
 
限定承認により引き継ぐ負債は、あくまで「被相続人のプラスの財産の範囲内」です。
この点、みなし譲渡所得課税は、あくまで被相続人の租税債務となりますので、プラスの財産を超えている部分は切り捨てられることになり、現実的に、納税が発生する場合は少ないと思われます。
 

資産<負債の場合 限定承認では、プラスの財産を超える部分は切り捨てとなりますので、みなし譲渡所得にかかる納税が追加で発生することはありません。
資産>負債の場合 プラスの財産が多いため、みなし譲渡所得にかかる納税が生じます。ただし、当該所得税債務も、他の借入金同様、相続人の債務ですので、相続税の計算上「債務控除」の対象となります。

 

(2)  将来の相続人の譲渡所得は軽減される

実は・・みなし譲渡所得課税制度は、デメリットではありません。相続人に生じるであろう、将来の売却にかかる「譲渡所得税」を軽減することを目的としています。
 
通常の相続の場合、相続財産については、被相続人の取得時期と取得価額を引き継ぎます。(相続時の時価ではない)。つまり、相続人が将来、相続財産を売却する場合は、被相続人の当初取得価額と売却価額との差額につき莫大な「譲渡所得税」が発生します。
 
一方、「限定承認によるみなし譲渡所得課税」では、相続時までの含み益に対応する所得税は、一旦被相続人負担として譲渡所得税を課税します。そして、相続人は、相続時点の時価で取得価額を引き継ぎ、相続人が将来、資産を売却する場合には、相続時の時価と売却価額との差額(相続後の含み益)だけに課税されることになり、所得税の負担が大幅に減少します。
 
(イメージ図)
 
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つまり、相続人が、限定承認で相続した財産を将来売却した場合に、多額の所得税が課税されれば、結果として相続財産の限度を超えて資金負担が発生することになるため、あらかじめ相続時までの含み益につき、相続人に課税されないように相続人を保護している制度となります。

 

 

(3)  譲渡所得税計計算時の留意事項

 

みなし譲渡所得計算時の不動産の「時価」 所得税上の時価となりますので、相続税評価額(路線価等)ではありません。
時価については、「適正な時価とは?」をご参照ください。
譲渡所得特例の適用は不可 みなし譲渡所得課税が生じる場合は、必然的に親族間での売買となります。
したがって、生計別親族等でない限り「居住用財産の3,000万円特別控除」や、10年超軽減税率の適用はできません
譲渡所得の税率 みなし譲渡所得課税が適用された不動産の「取得日」は「相続開始日」となります。
もし、相続人が、不動産を相続後短期間で売却する場合は、「短期譲渡」に該当し、税率が高くなる可能性があります。
住民税 みなし譲渡所得課税は、あくまで被相続人に課税されるものです。この点、被相続人は、翌年1月1日現在は住所がありませんので、住民税は課税されません。
確定申告 みなし譲渡所得に関する所得税は、被相続人の準確定申告で申告・納税します。
(相続開始日から4ヵ月以内)。

 

5. 限定承認の場合の相続税

限定承認の場合は、債務が多いことがほとんんどですので、相続税が課税されることはあまりありません。たとえ、遺産が余った場合でも基礎控除の範囲内で収まるケースがほとんどです。ただし、生命保険金や死亡退職金などのみなし相続財産を受け取った場合は、課税される可能性があります。
なお、上記のみなし譲渡所得課税の対象財産も含めて、相続税の申告は行います。みなし譲渡による所得税は、被相続人の債務として債務控除の対象となります。
 

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