相続対策の一つとして・・
「一般社団法人」を設立して、自社株や収益不動産を移転させる!などの節税本がよく出回っていますよね!
今回は、この「スキーム」と、2018年の「税制改正」をまとめます。
行き過ぎた「節税対策」に歯止めがかかる改正として、注目されています。
1. 一般社団法人の特徴
一般社団法人とは、営利を目的としない「非営利法人」です。
株式会社との大きな違いは、「利益の分配が行えない」点です。
とはいっても、利益を獲得する活動は可能ですし、「公益性」も必ずしも要求されませんので、自由に事業は行えます。
また、株式会社のような「出資」は強制されず、「人が集まること」を要件に、法人格を取得することができます
(人=個人だけでなく、法人も含む)。
株式会社と比較すると、こんな感じです。
株式会社 | 一般社団法人 | 設立時必要人数 | 1人以上 | 2人以上 |
---|---|---|
出資金 | 1円以上 | 不要 |
設立費用 | 高い | 安い |
剰余金の分配 | 可 | 不可 |
残余財産分配 | 可 | 不可 |
許認可 | 不要 | 不要 |
2. なぜ節税になる?
一般社団法人は、株式会社と異なり、「出資金」や「持ち分」の概念がありません。
簡単に言うと・・誰のものでもないんですね。
通常の株式会社は、出資額や留保利益に「持ち分」が存在するため、この「持ち分」につき、相続税がかかってきます。
一方、一般社団法人は、いくら利益を稼いでも、「持分がない」ので、相続税はかからない・・という感じです。
例えば、評価額の高い「収益不動産」や「自社株式」を、遺言・売却・贈与等何らかの形で、一般社団法人に移しておけば、その後、相続税は課税されないことになります。
ただし、一般社団法人に財産を移す際には、贈与税や所得税が課税されます!
でも・・移す時点で、一旦「贈与税」や「所得税」を支払ってしまえば、一般社団法人には永久的に相続税が課税されない・・というロジックになります。
ちょっと・・びっくりですね。
3. 課税関係
(1) 生命保険金の非課税枠総額の計算
① 所得税(or法人税)課税
個人が所有する不動産等を、一般社団法人に贈与する場合、「時価で譲渡」したものとして「譲渡所得課税」が発生します。
一方、贈与を受けた「一般社団法人側」は、その「受贈益」に対して「法人税」が課税されます。
② 相続税or贈与税
一般社団法人への贈与により、相続税等が不当に減少する場合は、一般社団法人を個人とみなして「贈与税等」が課税されます(相法66条④)
相続税法第66条第4項
-
持分の定めのない法人(一般社団法人)に対し、財産の贈与又は遺贈があった場合において、当該贈与又は遺贈により当該贈与又は遺贈をした者の親族その他これらの者と特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるときは、当該法人を個人とみなして、贈与税又は相続税を課する。
例えば、個人が、相続税を減らすために「一般社団法人」を設立して、個人の財産を贈与した場合どうでしょうか?
この場合、上記の規定があるため、資産を移したときに「贈与税等」が課税されます。
つまり、一般社団法人に贈与した時点では、上記の規定があることにより、歯止めがかかってるんですね。
この時点での「相続税節税効果」は・・ありません。
(不当に減少する結果とならない場合)~「非営利型法人」~
以下①~④の要件を充たす場合です(相施令33③)
① 運営組織が適正であり、定款等で、理事等に占める3親等内の親族割合を1/3以下とする定めを設けること。
② 一般社団法人に関係する「特定の者」に、特別の利益を供与しないこと。
③ 定款等で、解散時の残余財産は、国等に帰属させる旨の定めを設けること。
④ 一般社団法人に法令違反、仮装隠蔽等がないこと。
上記の規定は、現実的にはかなりハードルが高いので・・
現実的には、「贈与」は難しく(=贈与税がかかるため)、「売買」で移転することが一般的です。
売買の場合、「入り口時点」では譲渡所得税はかかりますが、「出口時点」、つまり譲渡後の時価上昇による相続税等の影響は避けることができます。
(まとめ)
適正価額での譲渡 |
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---|---|
無償での贈与 |
|
(2) 一般社団法人に財産を移した後の税金
一般社団法人は、株式会社と異なり、「出資」や「持ち分」の概念がありません。
ですので、原則的には、構成メンバーに「相続が発生」しても相続税は課税されません。
でも・・ここが、2018年の税制改正で変更された論点なんですね。
4. 税制改正
2018年の税制改正で、一般社団法人等に対する「相続税」や「贈与税」の見直しが行われました。
一般社団法人設立による「租税回避行為」を阻止し、課税の公平性を確保することが目的です。
① 個人純資産に課税
従来は、一般社団法人の役員が死亡しても、一般社団法人を「個人」とみなして相続税が課されることはありませんでした。
しかし、税制改正により、「特定一般社団法人等」については、死亡役員(理事に限る)に対応する純資産額を、遺贈で取得したものとして、特定一般社団法人等に相続税が課される形に改正されました。
② 一般社団法人に対する贈与税課税の見直し
一般社団法人に対する贈与でも、相続税や贈与税の負担が「不当に減少する結果とならない場合(=「非営利型法人」)には、贈与税は課税されません。
今回の改正により、この要件が明確となり、いずれか1つでも満たさない場合には、贈与税または相続税を課税するという点で、規定が明確化されました。
(上記3(1)「不当に減少する結果とならない場合」をご参照ください。)
③ 改正税法適用時期
- 2018年4月1日以後の理事等の死亡に係る相続税・贈与税
- ただし、設立が2018年3月31日までの一般社団法人等は、2021年4月1日以後の理事等の死亡に係る相続税について適用。
相続税対策は、正直、課税当局とのいたちごっこです。
仮に「現行税法」で節税できたとしても、将来的な税制改正は読めませんし、「過度な節税」には必ず歯止めがかかります。
そういった意味で、一時だけの節税対策は、長い目で見ると、あまり意味がないのかもしれませんね。