Q66【一般社団法人等】個人とみなされて相続税・贈与税が課税されるケース/一般社団法人への不動産贈与・譲渡等の取扱いは?(2018年改正 相続税節税スキームの歯止め)

 最終更新日:2023/12/22 閲覧数:12,492 views

株式会社の場合、出資している株主がなくなった場合、株主出資持分につき、相続税が課税されます。
一方、一般社団法人は、営利を目的としない「非営利法人」であり、株式会社等と異なり、出資持分という概念がありません。「出資持分」がないということは、たとえ理事等が死亡した場合でも、理事個人側に「相続税」は課税されないことになります。

ここを悪用して、理事個人から一般社団法人に「資産」を移転し、「相続税逃れ」を行うスキームが横行したため、2018年に「一般社団法人」にかかる相続税の改正が行われています。

今回は、一般社団法人の特徴や、改正論点、一般社団法人に相続税、贈与税が課税されるケースをお伝えします。
 

1. 一般社団法人の特徴

(1)一般社団法人には出資持分なし

一般社団法人も、株式会社等と同様、「法人」の一形態であることから、一般社団法人名義で、預金や不動産等の財産の所有が可能です。また、役員等に対する給与の支払も可能です。
一方、一般社団法人等は、株式会社等と異なり、「共通の目的を持った人の集まり」であり、必ずしも出資の必要はないことから、そもそも、出資(持分)という概念がありません
 

(2)原則として相続税が課税されない

株式会社の場合、株主には、出資額や留保利益に対する「持分」が存在するため、株式会社が所有する財産は、各株主の「持分」となり、「持分」(株式=財産価値)の譲渡や相続に対して、所得税や相続税が課税されます。
一方、上記の通り、一般社団法人には「持分」がないため、いくら一般社団法人の財産が増えても、理事等「個人」に帰属する財産にはなりえません。したがって、たとえ理事等が亡くなって相続が発生した場合でも、当該一般社団法人が所有する財産は、理事等の「持分」ではないため、相続税の課税対象にはなりません(理事の交代だけで完了)。

 

(3) 相続税逃れが可能

上記の特徴を踏まえると、例えば、理事等個人が所有する不動産を、一旦「一般社団法人」に移しておけば、永久に、相続税は課税されないことになります。なお、個人から一般社団法人に財産を移す際は、所得税が課税されますが(みなし譲渡所得課税(所法59))、逆に言うと、財産を移す時点で、一旦所得税を支払ってしまえば、その後、個人に相続税は課税されないため、相続税逃れが可能ということになります。
 
(なお、一般社団法人解散時の財産は、定款に記 載がなければ、解散時の社員総会で財産の取得者を決定できます)。
 

2. 特定の一般社団法人は「相続税」が課税

上記の「租税回避行為」を防止する観点で、一定要件を満たす一般社団法人等の理事が死亡した場合、一般社団法人を個人とみなして、「相続税」が課税される規定が制定されています(相法66の2)。

 

(1)対象となる一般社団法人等

次の要件の「どちらか」にあてはまる一般社団法人or一般財団法人(「特定の一般社団法人等」と呼ばれます)。
 
●相続直前において、その被相続人(※)にかかる同族理事の数が、理事総数の1/2超
●相続開始前5年間につき、その被相続人(※)にかかる同族理事の数が、理事総数の1/2超の期間合計が3年以上。

 
(※)被相続人は、現理事だけでなく、理事でなくなった日から5年を経過していない者も含みます
 

(2) 同族理事とは?

「同族理事」とは、一般社団法人等の理事のうち、以下の「特殊の関係のある者」です(相施令34条3項)

 

①被相続人の配偶者②被相続人の3親等内の親族③被相続人と事実婚にある者④被相続人の使用人等で、被相続人から金銭等により生計を維持されている者⑤上記③④の者と生計を一にする配偶者又は3親等内の親族⑥次の法人の役員又は使用人
●被相続人が会社役員となっている法人
●被相続人の同族会社

 

(3) 相続税が課税される金額

下記の金額を、被相続人から一般社団法人が「遺贈」で取得したものとみなして、相続税が課税されます。
 
相続開始時点の「特定の一般社団法人等」の純資産額のうち、当該被相続人対応部分
 
具体的には、「被相続人対応部分」の計算は、以下の式で算定します。
 
一般社団法人の純資産額 ÷ 被相続人(死亡した理事)を含む同族役員の数
 
ただし、個人から一般社団法人に資産を移転した際に、贈与税が課税された部分(下記3参照)は、相続税から控除されます(相法66の2③)。
 
なお、上記金額は、被相続人に係る相続人・受遺者が相続等により取得した他の財産の価額と合計し、それぞれの相続税額を計算する形になります。
 

3. 一般社団法人の贈与税課税の明確化

(1) 一般社団法人に贈与税が課税されるケース

上記の理事の相続の場面のほか、一般社団法人等に贈与する場合の「贈与税等」の規定も、明確に定められました。
個人から一般社団法人への資産贈与により、個人の贈与税・相続税が不当に減少する結果になる場合は、一般社団法人を個人とみなして一般社団法人に「贈与税等」が課税されます(相法66条④)
 
【相続税法第66条第4項】
持分の定めのない法人(一般社団法人)に対し、財産の贈与又は遺贈があった場合において、当該贈与又は遺贈により当該贈与又は遺贈をした者の親族その他これらの者と特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるときは、当該法人を個人とみなして、贈与税又は相続税を課する。

 

(2) 不当に減少する結果とならない場合

「不当に減少する結果とならない場合」が例示されています(相施令33③)。
以下①~④の要件すべて満たす場合は、贈与税等は課税されません
 


① 運営組織が適正であり、定款等で、理事等に占める3親等内の親族割合を1/3以下とする定めを設けること。
② 一般社団法人に関係する「特定の者」に、特別の利益を供与しないこと。
③ 定款等で、解散時の残余財産は、国等に帰属させる旨の定めを設けること。
④ 一般社団法人に法令違反、仮装隠蔽等がないこと。

 
上記の要件は、おおむね「非営利徹底型」の一般社団法人の要件と合致しています。
 
つまり、「非営利徹底型」の要件を満たさない一般社団法人の場合、上記の規定により、個人から一般社団法人への贈与に歯止めがかかることになります。

 

(3) 贈与した個人側の課税関係

贈与した個人側の課税関係は、改正前、改正後も変更はありません。個人から法人に、不動産等を適正時価の1/2未満の価格で譲渡する場合は、その時点の時価により譲渡したものとみなされ、「適正時価との差額」につき所得税が課税されます。(みなし譲渡所得課税(所得税59条))。
 
この場合、受入側の「一般社団法人」は、時価との差額につき「受贈益課税(法人税)」が行われますが、贈与税と法人税の二重課税となりますので、法人税等は、支払うべき贈与税又は相続税から控除され、結果的に法人側の支払は、「贈与税」部分のみとなります(相法66⑤)。
 
なお、「現金」を一般社団法人に贈与した場合は、みなし譲渡所得課税の適用はなく、個人側に課税関係は生じません(法人側のみ受贈益課税)。
 

4. 一般社団法人等への譲渡の場合

一般社団法人等に「無償贈与」ではなく、「有償譲渡」の場合は、上記規定の適用はなく、一般社団法人側には「贈与税」は課税されません。譲渡の場合は、財産が減少する一方、未収債権等の資産が計上され、結果的に相続税を逃れることはできないためです。
 
この場合は、原則通り、譲渡した個人側に「取得価額と実際売買価格」の差額につき「譲渡所得税」が課税されます。また、適正時価の1/2未満の価格で譲渡する場合は、時価により譲渡したものとみなされ、「適正時価との差額」につき譲渡所得税が課税されます(みなし譲渡所得課税・所得税59条)。一方、贈与を受けた一般社団法人側は、適正時価と実際売買価格の差額につき、「受贈益」が計上され、「法人税」が課税されます。
 
こちらについては、低額譲渡のブログでまとめております。ご参照ください。のブログでまとめております。ご参照ください。

 

5. 参照URL

(特定の一般社団法人等に対する課税のあらまし)

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sozoku-zoyo/201909/01.htm

(特定の一般社団法人等に対する相続税の課税の概要)

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sozoku-zoyo/201909/pdf/0020006-128_01.pdf

6. YouTube

YouTubeで分かる「一般社団法人等」
 

【関連記事】