土地を有効活用する観点で、「土地」と「建物」を等価交換する場合があります。
この等価交換を利用すると、相続税評価額を下げることができる場合があります。
こういった「等価交換」は、具体的にどういった場面で利用されるのでしょうか?
目次
1. 等価交換方式って何?
土地所有者と、マンション等開発業者が共同で賃貸マンション等を建設する場合
「等価交換方式」というしくみを利用します。
この方式では、地主が土地を提供する代わりに、マンション開発業者は建築費用を負担します。
そして、建物完成後、「土地」と「建物建築費用」が「等価」になるように、土地と建物を交換するしくみです。
地主さんはマンションを建築したいけど、資金がない場合など・・有効な手段ですね。
地主側は、土地を提供するだけで、資金負担をすることなくマンションを建設できるため、よいしくみですね。
2. 具体例
(1) 土地と建物の所有権割合
総額=8億円(土地評価額)+2億円(マンション建設費用)=10億円。
「土地建物総額」に占める、Aさん(土地負担者)と、B建設(建物負担者)の所有権割合は、8対2となります。
(2) 等価交換による各人の金額
建物完成後に、「土地」と「建物」を等価交換した場合、土地、建物それぞれの所有金額をまとめると、以下の通りです。
Aさん(地主) | B建設 | 合計 | |
---|---|---|---|
土地 | 640百万円 | 160百万円 | 800百万円 |
建物 | 160百万円 | 40百万円 | 200百万円 |
3. 等価交換と所得税の関係
(1) 原則的な取り扱い
等価交換は、同価値の「モノ同士」を交換するだけで、お金も動いていないので・・
「所得税」は発生しないようにも思います。
しかし、等価交換の税務上の取り扱いは、原則として「土地・建物の売買」として取り扱います。
つまり、例えば、交換により譲渡した土地の時価が160百万円で、当該土地を過去に取得した際の価額が1百万円の場合は、差額159百万円に対して「所得税」がかかってくる、という結論になります。
(2) 立体買換えの特例
(中高層耐火共同住宅建設のための買換え特例(措法37条の5①二)
一定要件を満たす等価交換の場合、課税が繰延され、等価交換時に税金はかかりません。
(要件)
譲渡資産 | 三大都市圏の既成市街地等内にある土地建物等(所有期間や譲渡前用途の制限はなし) |
---|---|
買替資産 | 譲渡土地等の上に建築される3階以上の耐火(or準耐火)構造で、半分以上が居住用 |
買換資産は、原則として譲渡年12月末までに取得、取得の日から1年以内に居住用か事業用に使用すること |
(3) 注意事項
- この特例は、あくまで「課税の繰延」で、「課税の免除」ではありません。したがって、将来売却するときなどには、税金が発生する可能性があります。
- 等価交換により取得する建物の「取得価額」は、交換によって譲渡した「土地の取得価格」となります。
つまり、時価160百万円の土地を売却したにもかかわらず、取得した「建物」の取得価額は、譲渡した「土地の簿価」となりますので、譲渡土地の取得価額が低い場合は、減価償却金額が少なくなる可能性があります。 - 他の譲渡所得の買換え特例や、特別控除の適用を受けることはできません。
4. 等価交換で、相続税評価が下がる?
等価交換方式を利用して、建物を第三者に賃貸する場合は、結果的に、土地や建物の「相続税評価額」が下がります。
等価交換による直接の影響ではありませんが、「建築した建物を第三者へ賃貸」することにより、「借地権」「借家権」部分の評価が下がるというしくみです。
先ほどの例をもとに、「等価交換方式」で賃貸した場合の土地・建物の評価額をまとめます。
(1) 等価交換をしない場合
- 土地評価額・・8億円
- 建物評価額・・ゼロ
(2) 等価交換をした場合
等価交換を実施して、第三者に賃貸した場合、土地は「貸家建付地」としての評価、建物は、借家権割合を差し引いた評価をすることが可能になります。
例えば、借地権割合を60%、借家権割合は30%として、Aさん(地主)の土地、建物それぞれの評価額をまとめます。
(Aさん)
等価交換後 | 借地・借家権控除後 | |
---|---|---|
土地 | 640百万円 | 524.8百万円(※1) |
建物 | 160百万円 | 112百万円(※2) |
合計 | 800百万円 | 636.8百万円 |
(※1)640百万円 × (1 – 60% × 30%) = 524.8百万円
(※2)160百万円 × (1 – 30%) = 112百万円
5. 等価交換による税務上のメリットデメリット(土地所有者から見た場合)
メリット | デメリット |
---|---|
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また、税務上の論点以外でも、デベロッパー主体で動くケースが多いため、不利な条件で交換してしまう可能性や、デベロッパー取得部分は自由にデベロッパーが譲渡できるため、権利者が多数になる可能性がある点にも留意しなければいけません。
6. 税務上の結論
「等価交換方式」は、土地の有効活用や、相続税の圧縮という観点では、非常に有用な制度です。
ただし、所得税上は、「土地の売却益課税」の論点や、「立体買い換え特例」を満たした場合でも、交換後の「建物減価償却額」が小さくなるデメリットがあります。
したがって、等価交換後の建物減価償却額と、等価交換による相続税の節税効果などを比較衡量、総合的に判断して、意思決定されることをお勧めします。