不動産を購入する場合、資金や住宅ローンの関係等で、不動産を共有名義で登記するケースもあると思います。
例えば、夫婦で不動産を折半して購入する場合に、出資額に応じた「共有名義」で登記を行うケースなどです。
こういった「共有名義の不動産」は、相続税上、どのような評価が行われるのでしょうか?
土地の相続税上の評価は、「利用使途」によって「自用地」「貸家建付地」等、それぞれで評価額が異なります。
また、相続税上は、「小規模宅地等の特例」(特定居住用宅地等の特例)という制度があります。亡くなられた方等が「居住」していた土地を相続(遺贈)する場合、一定要件を満たす場合は、土地の評価額が80%減額できる制度です。
今回は、「共有名義の不動産」につき「小規模宅地等の特例」との関係についても解説します。
土地、建物どちらが共有なのか?によって、パターンが分かれます。
目次
1. 土地の相続税評価と小規模宅地等の特例
(1) 土地の相続税評価
同じように所有している土地でも、土地の評価は、その「利用使途」によって大きく変わります。自由な利用制限のない土地(自用地)と比べると、賃貸している土地は、賃借人がいる分、利用する際に制約がありますので、相続税評価額は下がります。
自用地にかかる相続税評価は、「路線価ないし固定資産税評価額」で行います。
一方で、例えば、自分の土地を他人に賃貸し、土地上に、他人の建物が建っている場合(貸宅地)、建物所有権者に認められる「借地権」部分だけ、土地の評価額は下がります。
貸宅地にかかる相続税評価額は、自用地評価額 × (1 - 借地権割合)となります。
詳しくは、Q121をご参照ください。
(2) 特定居住用宅地等の特例
亡くなられた方等が「居住」していた土地を相続(遺贈)する場合、一定要件を満たす場合は、土地の評価額が80%減額できる制度です。詳しくはQ22をご参照ください。
2. 土地が共有の場合
まず、「土地」が共有の場合です。事例をもとに解説します。
(イメージ図)
(1) 「父の共有持ち分」の敷地50㎡
①土地の評価区分
「父の共有持ち分」である敷地は、「自宅」として居住していますので、「自用地評価」となり、相続税上の評価減はありません。
②小規模宅地等の特例との関係
当該土地は、父自身が居住していますので、「小規模宅地等の特例」の適用が可能です。
(2) 「母の共有持ち分」の敷地50㎡
「母の共有持ち分」である敷地は、元々母の持ち分ですので、今回の相続対象外となり、関係ありません。
(3) まとめ
生前区分 | 対象 | 評価区分 | 小規模宅地等との関係 | 居住区分 |
---|---|---|---|---|
父共有持ち分の敷地 | 50㎡ | 自用地 | 特定居住用宅地等の特例適用OK | 本人居住 |
母共有持ち分の敷地 | 50㎡ | ― | ― | ― |
3. 建物が共有の場合
次に、「建物」が共有の場合です。
(イメージ図)
(1) 「父建物共有持ち分」の敷地50㎡(敷地所有者は父)
①土地の評価区分
「父の建物共有持ち分」の敷地は、「自宅」として居住していますので、「自用地評価」となり、相続税上の評価減はありません。
②小規模宅地等の特例との関係
「父の建物共有持ち分」の敷地は、父自身が居住していますので、「小規模宅地等の特例」の適用が可能です。
(2) 「母建物共有持ち分」の敷地50㎡(敷地所有者は父)
①土地の評価区分
「母の建物共有持ち分」の敷地は、父所有となりますので、当該土地も相続税の課税対象となります。
当該土地は、母は所有権を有しておりませんが、家族間の場合、当該敷地は父から土地を無償で借りる(=使用貸借)ことが一般的です。
使用貸借の場合、「借地権はゼロ」で評価しますので、結論、母持ち分建物に対応する土地は、「自用地」評価となります。詳しくは、Q33をご参照ください。
②小規模宅地等の特例との関係
建物共有登記の場合は、誰がどの部分を所有しているか?の明確な区分はないため、1棟の建物全体が、本人(被相続人)が居住していた建物と取り扱われ、「特定居住用宅地等の特例」の対象となります。詳しくは、Q27をご参照ください。
結論、建物が共有名義の場合は、父所有土地100㎡すべてが、「小規模宅地等の特例」の対象となります。
(3) まとめ
生前区分 | 対象 | 評価区分 | 小規模宅地等との関係 | 居住区分 |
---|---|---|---|---|
父建物共有持ち分の敷地 | 50㎡ | 自用地 | 特定居住用宅地等の特例適用OK | 本人居住 |
母建物共有持ち分の敷地 | 50㎡ | 自用地 | 特定居住用宅地等の特例適用OK | 本人居住 |
次回は、「貸家」の場合の「小規模宅地等との特例」の関係をまとめます。