お亡くなりになられた方が借金だらけの場合、「相続放棄」を行うことで、借金を相続しないことが可能となります。
しかし、お亡くなりになられた方が、借金だけでなく、自宅などプラスの財産もお持ちの場合はどうでしょうか?
「相続放棄」を行うと、借金だけでなく、自宅などプラスの財産も相続することができなくなってしまいます。
プラスの財産だけは引き継ぎたい!と考える方もいるかもしれません。
そこで、「限定承認」という制度があります。
限定承認とは、被相続人の「プラスの財産の範囲内で」借金を相続する制度となります。
簡単に言うと、「相続財産を換金して負債の返済に充てるが、それ以上は返済義務を負わない、逆に負債を返済して余った分は相続できる」という点で、相続人を保護する制度となります。
相続放棄の場合は、財産も債務も一切引き継ぎませんが、限定承認の場合は、借金を一部相続する代わりに、プラスの財産の相続が可能となりますので、例えば自宅だけを確保したい場合などに利用されます。
限定承認は、「相続放棄」と「単純承認」の中間的な位置づけの制度となります。
(イメージ図)
相続が発生した場合は、相続発生後3か月以内に、単純相続、相続放棄、限定承認のいずれかを選択します(3か月以内に何もしなければ、「単純承認」とみなされます)。
限定承認と相続放棄は、どちらも、相続開始を知ってから3ヶ月以内に、家庭裁判所に申述を行う点は共通していますが、以下の点で異なります。
限定承認 | 相続放棄 | |
---|---|---|
相続する債務の範囲 | 相続財産の範囲内 | 一切引き継がない |
家庭裁判所への申し立て | 相続人全員で申述 | 相続人単独で可能 |
手続の複雑性 | 非常に複雑 | 家庭裁判所への申し立てのみで簡単 |
①相続人全員で申述
法律関係が複雑になる観点より、一部の人のみ「限定承認」することは認めらておらず、「家庭裁判所で、法定相続人全員で申述」が必要となります。相続人のうち一人でも単純承認すると不可能となりますので、限定承認を行うには、他の相続人全員が限定承認するか、他の相続人全員に相続放棄してもらう必要があります。
また、限定承認の手続きが終わるまでに、少しでも遺産を処分してしまうと自動的に単純承認をしたものとみなされ、他の相続人も含めて限定承認はできなくなりますので、注意が必要です。
②手続が非常に複雑
また、申述後に、相続財産の清算(公告・催告、競売による換価)を行い、相続債権者や受遺者に弁済を行う点、手続きは非常に煩雑になります。この点で、実務上、「限定承認」は、あまり利用されていないのが現状です。
相続放棄を行うと、借金だけでなくプラスの財産も相続できません。例えば、被相続人と同居していた相続人は、相続放棄を行うと、自宅を明け渡さないといけないことになります。
この点、「限定承認」すれば借金は引き継ぐ代わりに、プラスの財産である自宅は引き継げる場合があります。
また、遺産の中に、先祖代々の家宝や、希少価値のある資源などが含まれている場合も、限定承認を行うことで、家宝や宝石などは引き継げる可能性があります。
被相続人が残した財産が「プラス」なのか「マイナス」なのか?わからない場面では、「限定承認」が有効に機能します。
なぜなら、わからないまま「単純承認」や「相続放棄」をしてしまうと、想定外の借金を背負うリスクや、逆に、莫大な資産が存在していた場合には、大きな機会損失が発生してしまうリスクがあるためです。
限定承認では、最終的に債務よりもプラスの財産が上回る部分は引き継げますので、上記のリスクを和らげる効果があります。
通常、限定承認をした場合、「相続財産を全て換価して債権者に返済し清算」することになりますが、限定承認をした相続人は、例外的に、財産を競売処分せずに、相続人が取得できる手続が民法上定められています(民932)。
具体的には、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価額を支払うことができれば、競売なく、財産を取得することが可能です(先買権)。
ただし、現実的には、相続人自身が不動産を買い取る資金を準備する必要があり、実務上は資金の確保が難しいと思われます。
限定承認が行われると、相続時に被相続人から相続人に「すべての資産」の譲渡があったとみなされます(みなし譲渡所得課税・所得税法59条Ⅰ①)。
譲渡価格は「相続開始時の時価」とされており(所60Ⅱ)、相続時点で含み益がある資産については、この時点で所得税が発生します。例えば、取得価額の低い古い自宅などは、含み益が生じる可能性が高いです。
みなし譲渡所得課税は、亡くなった方の所得税(準確定申告)として課税される点がポイントとなります。
限定承認により引き継ぐ負債は、あくまで「被相続人のプラスの財産の範囲内」です。
この点、みなし譲渡所得課税は、あくまで被相続人の租税債務となりますので、プラスの財産を超えている部分は切り捨てられることになり、現実的に、納税が発生する場合は少ないと思われます。
資産<負債の場合 | 限定承認では、プラスの財産を超える部分は切り捨てとなりますので、みなし譲渡所得にかかる納税が追加で発生することはありません。 |
---|---|
資産>負債の場合 | プラスの財産が多いため、みなし譲渡所得にかかる納税が生じます。ただし、当該所得税債務も、他の借入金同様、相続人の債務ですので、相続税の計算上「債務控除」の対象となります。 |
実は・・みなし譲渡所得課税制度は、デメリットではありません。相続人に生じるであろう、将来の売却にかかる「譲渡所得税」を軽減することを目的としています。
通常の相続の場合、相続財産については、被相続人の取得時期と取得価額を引き継ぎます。(相続時の時価ではない)。つまり、相続人が将来、相続財産を売却する場合は、被相続人の当初取得価額と売却価額との差額につき莫大な「譲渡所得税」が発生します。
一方、「限定承認によるみなし譲渡所得課税」では、相続時までの含み益に対応する所得税は、一旦被相続人負担として譲渡所得税を課税します。そして、相続人は、相続時点の時価で取得価額を引き継ぎ、相続人が将来、資産を売却する場合には、相続時の時価と売却価額との差額(相続後の含み益)だけに課税されることになり、所得税の負担が大幅に減少します。
(イメージ図)
つまり、相続人が、限定承認で相続した財産を将来売却した場合に、多額の所得税が課税されれば、結果として相続財産の限度を超えて資金負担が発生することになるため、あらかじめ相続時までの含み益につき、相続人に課税されないように相続人を保護している制度となります。
みなし譲渡所得計算時の不動産の「時価」 | 所得税上の時価となりますので、相続税評価額(路線価等)ではありません。 時価については、「適正な時価とは?」をご参照ください。 |
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譲渡所得特例の適用は不可 | みなし譲渡所得課税が生じる場合は、必然的に親族間での売買となります。 したがって、生計別親族等でない限り「居住用財産の3,000万円特別控除」や、10年超軽減税率の適用はできません |
譲渡所得の税率 | みなし譲渡所得課税が適用された不動産の「取得日」は「相続開始日」となります。 もし、相続人が、不動産を相続後短期間で売却する場合は、「短期譲渡」に該当し、税率が高くなる可能性があります。 |
住民税 | みなし譲渡所得課税は、あくまで被相続人に課税されるものです。この点、被相続人は、翌年1月1日現在は住所がありませんので、住民税は課税されません。 |
確定申告 | みなし譲渡所得に関する所得税は、被相続人の準確定申告で申告・納税します。 (相続開始日から4ヵ月以内)。 |
限定承認の場合は、債務が多いことがほとんんどですので、相続税が課税されることはあまりありません。たとえ、遺産が余った場合でも基礎控除の範囲内で収まるケースがほとんどです。ただし、生命保険金や死亡退職金などのみなし相続財産を受け取った場合は、課税される可能性があります。
なお、上記のみなし譲渡所得課税の対象財産も含めて、相続税の申告は行います。みなし譲渡による所得税は、被相続人の債務として債務控除の対象となります。
被相続人が1月1日~お亡くなりになるまでに所得が発生している場合、相続税申告とは別に、最後の「所得税確定申告」を行わなければいけません。「準確定申告」と呼ばれます。被相続人に代わって、相続人が申告を行います。
「準確定申告」はすべての場合に必要というわけではありませんが、場合によっては、「準確定申告」をすることで、税金が還付される場合があります。
今回は、準確定申告が必要なケースや、準確定申告で税金が還付される場合等を中心にお伝えします。
(なお、1年以上の予定で海外に移住する場合も「準確定申告」が必要なケースがあります。こちらは別論点になりますので、Q52をご参照ください)。
確定申告が必要な方が年途中に亡くなった場合に、被相続人の代わりに、ご家族(相続人等)が、亡くなった日までの所得に対して行う「所得税確定申告」です。
① 相続開始があったことを知った翌日から4か月以内
相続開始があったことを知った日の翌日から4カ月以内となります。例えば、相続開始は令和4年1月1日だが、被相続人と疎遠だったため、相続開始を知ったのが令和4年3月1日であれば、そこから4か月後の令和4年7月1日となります。
② 前年分の確定申告が未了の場合
上記例のように、令和4年3月1日に相続の開始があったことを知った場合、準確定申告の期限は令和4年7月1日となりますが、令和3年12月期の通常の確定申告期限も令和4年7月1日となります。この令和3年12月期の確定申告も、亡くなった方の確定申告となりますので「準確定申告」と呼ばれます。
お亡くなりになった方の代わりに、相続人(相続放棄者等は除く)が行います。原則として連署で行いますが、各相続人が別々に申告書を提出することも可能です。
被相続人の住所地を管轄する税務署になります。相続人の住所ではありません。
e-tax(国税電子申告)での提出も可能です。
準確定申告の「申告義務」がある方は、通常の「確定申告義務」と全く同じです。
例えば、従来から確定申告を行っていた自営業者や、賃貸不動産の収入がある方は、原則として申告義務があります。
また、不動産や株の売却収入がある方も対象となります(源泉分離課税は除く)。
なお、通常の確定申告義務と同様、経費等を差し引きした結果、所得ゼロになる場合は申告義務はありません。
申告必要 | 不要 |
---|---|
●公的年金等による収入が400万円超 ●公的年金等雑所得以外に20万円超の所得あり ●給与収入 2,000万円超 ●給与所得・退職所得以外に20万円超の所得あり ●2か所以上から給料ある方(年末調整未了) |
●公的年金等による収入が400万円以下 かつ、公的年金等雑所得以外の所得が20万円以下 ●給与収入2,000万以下 かつ、給与所得・退職所得以外の所得が20万円以下 ●給与所得者で、勤務先が1か所の方(年末調整済)。 |
準確定申告が不要のケースでも、申告を行うことで、還付金を受け取ることができる場合があります。例えば、以下のケースです。
●給与や年金等で源泉徴収されている所得税がある場合
●医療費控除や、ふるさと納税等がある場合
●配偶者控除、扶養控除、寄付金控除などの各種控除を受ける場合など
ただし、準確定申告を行った結果、還付される税金が僅少な金額の場合は、費用対効果を考えて申告有無を検討する必要があります。
準確定申告でも、通常の確定申告同様、扶養控除や配偶者控除は可能です。
ただし、以下の点に注意が必要です。
「配偶者控除や扶養控除」などの判定時期は、亡くなった日時点で行います。
月割計算はありませんので、年途中で亡くなった場合も、控除額の全額控除可能です。ただし、扶養控除等の判定の際に関連する「合計所得金額」は、1年分の金額の見積額で行う点に注意が必要です。
本人が亡くなった当日までに支払った金額で行います。
確定申告とほぼ同じですが、下記の添付書類が必要となります。
① | 「死亡した者の令和○年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表(兼相続人の代表者指定届出書)」 | 相続人が2名以上いる場合に提出します。 |
---|---|---|
② | 委任状 | 相続人が2名以上いる場合、準確定申告還付金を代表相続人が一括して受領する場合に提出します。 |
E-taxの場合は、以下の点に注意が必要です。
無申告加算税や延滞税が課税されます。
亡くなった方に事業所得や不動産所得等があり、消費税納税義務者の場合は、消費税についても「準確定申告」の手続が必要になります。
亡くなった方が「青色申告」であっても、相続で事業を引き継ぐ人は、自動的に青色申告を引き継げるわけではなく、相続人が改めて青色申告承認申請書の提出が必要になります。
この場合、相続人の「申請書提出期限」は以下の通りとなります。
イレギュラーな提出期限となりますので、注意が必要です。
亡くなった日 | 提出期限 |
---|---|
1月1日~8月31日 | 亡くなった日から4か月以内 |
9月1日~10月31日 | その年12月31日まで |
11月1日~12月31日 | 翌年2月15日まで |
なお、亡くなった方や事業を引き継ぐ方が白色申告の場合は、他の青色申告と同様、原則として、青色申告をしようとする年の3月15日が期限となります。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2022.htm
https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/topics/shinkoku/ininjyo.htm
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kisairei/2020/pdf/014.pdf
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kisairei/2020/pdf/015.pdf
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亡くなった方の遺産を誰が相続するのか?は、原則として、遺言書、あるいは相続人全員の話し合いによる「遺産分割協議書」で自由に決めることができます。つまり、相続人同士の了解が得られれば、遺産の配分は自由に決定できます。
一方、遺言書がない場合や、相続人全員の話し合いで遺産配分が決まらない場合は、最終的に、裁判所は「法律で定められた順位」や「割合」で遺産を配分します。この「法律で定められた順位や割合」は「法定相続順位」「法定相続割合」と呼ばれます。民法上、遺産を受け取れる権利がある方の「順位」や「割合」が定められています(民法886~895条)。
今回は「法定相続順位」や「法定相続割合」につき解説します。
なお、今回の論点とは別になりますが、遺言がある場合でも、遺言者が、遺言と異なる内容の遺産分割を禁じた場合以外は、相続人同士の了解が得られれば、遺産の配分は自由に決定できます(遺言執行者がいる場合は同意が必要)。
(遺留分を侵害する内容の遺言書でも、法的には有効。遺留分を侵害された相続人は「遺留分侵害額請求」で遺留分を取り戻すことが可能)。
相続人全員の話し合いで「合意」する場合は、必ずしも「法定相続順位」「法定相続割合」で相続する必要はありませんが、相続税の計算上は、法定相続割合で「相続税総額」の計算が行われますので、大切な論点となります。
民法上、法定相続人の優先順位が定められています。
まず、配偶者は必ず法定相続人となり、誰よりも優先されます。他にどの順位の方がいても、常に法定相続人として優先されます(民890)。ただし、正式な婚姻関係がある配偶者である必要があります。
配偶者以外の方は、法定相続人の順番が決められています。第一順位の方がいれば、たとえ第二順位の方がいても、第一順位の方が優先され、第二順位の方は法定相続人になれません。第一順位の方がいない、あるいは相続放棄した場合は、第二順位の方⇒次に第三順位という形で順番が決められています。つまり、第一順位の相続人と第二順位の相続人が同時に法定相続することはありません。一方、配偶者は、どの順位の方がいても、常に法定相続人として優先されます。
優先順位は以下の通りとなります。
常に優先 | 配偶者 |
---|---|
第一順位 | 子供(直系卑属) |
第二順位 | 親(直系尊属) |
第三順位 | 兄弟姉妹 |
直系尊属が複数いる場合は、より親等が近い者が優先されます(例 祖父よりも父が優先)。なお、父と母・祖父と祖母など、親等が同じ場合は、両方とも相続人となります。
法定相続人が既に死亡している場合、死亡した法定相続人に「お子様」がいる場合は、その法定相続人に代わって、代襲相続が可能です。代襲相続の場合は、代襲相続人が、亡くなった法定相続人と同順位の相続人となります(民887条)。
法定相続できるパターンをまとめると、以下の通りとなります。配偶者がいる場合、いない場合に分けてまとめます。
相続人の状況 | 配偶者 | 子供 | 親 | 兄弟 |
---|---|---|---|---|
配偶者のみ | 〇 | × | × | × |
配偶者あり / 子供あり | 〇 | 〇 | × | × |
配偶者あり / 子供なし / 親あり | 〇 | × | 〇 | × |
配偶者あり / 子供なし / 親なし / 兄弟あり | 〇 | × | × | 〇 |
相続人の状況 | 配偶者 | 子供 | 親 | 兄弟 |
---|---|---|---|---|
配偶者なし / 子供あり | × | 〇 | × | × |
配偶者なし / 子供なし / 親あり | × | × | 〇 | × |
配偶者なし / 子供なし / 親なし / 兄弟あり | × | × | × | 〇 |
配偶者なし / 子供なし / 親なし / 兄弟なし(※) | × | × | × | × |
(※)法定相続人が全くいない場合は、特別縁故者⇒最終的に国庫に帰属します。また、法定相続人が行方不明の場合は「失踪宣言」で死亡とみなします。
法定相続人の順位と同様、法定相続割合も民法上決められています(民法900条)。
配偶者は、常に法定相続人となりますが、他の相続人の順位によって、法定相続割合(民法900条)は、変わってきます。
相続人の状況 | 配偶者 | 子供 | 親 | 兄弟 |
---|---|---|---|---|
配偶者のみ | 1/1 | × | × | × |
配偶者あり / 子供あり | 1/2 | 1/2 | × | × |
配偶者あり / 子供なし / 親あり | 2/3 | × | 1/3 | × |
配偶者あり / 子供なし / 親なし / 兄弟あり | 3/4 | × | × | 1/4 |
相続人の状況 | 配偶者 | 子供 | 親 | 兄弟 |
---|---|---|---|---|
配偶者なし / 子供あり | × | 1/1 | × | × |
配偶者なし / 子供なし / 親あり | × | × | 1/1 | × |
配偶者なし / 子供なし / 親なし / 兄弟あり | × | × | × | 1/1 |
配偶者なし / 子供なし / 親なし / 兄弟なし(※) | × | × | × | × |
第一順位、第二順位、第三順位の方が複数いる場合は、人数で分割します。
例えば、配偶者あり・子供2人の場合は、配偶者1/2・子供は2人で1/2の法定相続割合となります。⇒つまり・・この場合、各子供の法定相続割合は1/4ずつとなります。
相続放棄した場合は、最初から相続人ではなかったと考えるため、同順位の方がいなければ、次の優先順位の方が相続します(相続放棄した方の子は代襲相続不可)。つまり、相続放棄によりで新たな相続人が登場し、相続人人数が増えて、複雑になる場合があります。
●配偶者なし、子供A・B2人の場合
子供Aが相続放棄した場合は、Bがすべてを相続します(Aの子供に代襲相続は認められない)。また、A・Bどちらも相続放棄した場合は、次順位直系尊属⇒兄弟姉妹に順位が移動します。
●被相続人の父母が相続放棄をする場合
第2順位直系尊属(祖父母等)が相続人になります。祖父母が他界していた場合に、初めて第3順位の兄弟姉妹が相続人となります。
被相続人に借金があり、第1順位の相続人全員が相続放棄した場合、第2順位の直系尊属⇒第3順位の兄弟姉妹まで相続放棄の順番は続きます。第3順位の兄弟姉妹が相続放棄をした場合は、誰も相続人がいなくなり、特別縁故者⇒最終的に国庫に帰属します。相続放棄は、次順位の方にも影響がある点に注意が必要です。
なお、異なる順位の相続人が、同時に相続放棄の申述をすることはできません。先順位の相続人がいる場合には,先順位の相続人全員の相続放棄の申述が受理されてから、次順位の相続人が相続放棄の申述をすることになります。
相続欠格・廃除 | 相続欠格・廃除の場合は、同順位の方がいなければ、次順位に相続順位が移動する点、相続放棄と同様。ただし、代襲相続が認められる点が「相続放棄」と異なる。 |
---|---|
養子縁組の子 | 実子と同様に取り扱う |
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相続放棄とは別に、「遺贈放棄」という手続きがあります。
似たような手続きですが、全く別の制度になります。
今回は、相続放棄と遺贈、そして遺贈放棄の関係をまとめます。
遺贈というのは、「遺言」によって財産を贈与することです。
法律上は、相続と異なり、遺言による一方的な「贈与」となります。
遺贈には、包括遺贈と特定遺贈の2種類があります。
贈与を受ける方は、一般的に「受贈者」と呼ばれます。
遺贈は、法律上は一方的な「贈与」となりますが、必ずしも受け取らないといけないわけではありません。
「遺贈放棄」という手続きにより、「放棄」することは可能です。
「包括遺贈」と「特定遺贈」それぞれで手続が異なりますので、以下にまとめておきます。
内容 | 効果 | 放棄の方法 | |
---|---|---|---|
包括遺贈 | すべて(又は一部の一定の割合)の遺産を一括して贈与する遺贈。 | 全ての財産・債務を引き継ぐことになるため、相続人が単純承認したのと同じ効果となる。 | 借金を相続してしまう可能性があるため、債権者保護の観点から、家庭裁判所での手続が必要。 期限は相続放棄と同様、相続発生後3か月以内。 |
特定遺贈 | 特定の遺産を指定して贈与する遺贈。 | 遺贈対象だけを引き継ぐため、借金などを引き継ぐことはない。 | 家庭裁判所での手続は不要。 他の相続人や、遺言執行者に対して、遺贈放棄の意思表示をすれば足りる。 期限は特にない。 |
「遺贈放棄」と「相続放棄」は全く別物の制度です。
ですので、たとえ遺贈放棄を行ったとしても、別途「相続放棄」の手続は行わなければいけません。
特に、相続人が「受贈者」の場合は、注意しましょう。
例えば、「遺贈放棄」を行った場合、遺贈予定であった財産は「相続財産」となり、相続人による相続の対象となります。
つまり、相続人が「受贈者」が相続人でもある場合は、たとえ「遺贈放棄」をした場合でも、その後「相続人」の立場で、「相続財産」を引き継ぐことになります。
制度が全く別なので、相続人が「遺贈放棄」を行っても自動的に「相続放棄」が行われるわけではありません。
被相続人の財産を完全に放棄したい場合は、「遺贈放棄」だけでなく、別途、「相続放棄」も行わなければならない点、に注意しましょう。
相続放棄を行うと、被相続人の「プラスの財産」も「マイナスの財産」も引き継がなくてすみます。
しかし、中には「プラスの財産だけ」は相続したいと考える方もいるかもしれません。
ここで・・「遺贈」で財産を受け取ったうえ、別途「相続放棄」を行うことは可能か?という論点があります。
制度上、「遺贈」と「相続放棄」は、全く別物の制度ですので、遺贈を受けた人が「相続放棄」を行うことは可能です。
仮に、相続放棄を行った場合でも、その効果が「遺贈財産」まで及ぶことはありませんので、遺贈財産は、そのまま引き継ぐことが可能です。
ただし、当該行為が、「債権者を著しく害する場合」には、債権者から「詐害行為取消権」(民法424条)などによって取り消される可能性がありますので、実務的には難しいところもあるようです。
被相続人に借金等がある場合、相続人は、「遺言」の有無に関わらず、自らの意思で「相続放棄」が可能です。
この点、相続人の中に「相続放棄」される方がいる場合、他の相続人の立場では、相続税への影響が気になるところです。今回は、相続放棄がある場合の、相続税の「法定相続人の数」や「基礎控除」への影響につき、解説します。
また、「相続放棄」を行った方の立場では、「生命保険」等の財産の受取可否や、「生命保険の非課税枠」等、相続税上の制度をどこまで活用できるのか?疑問が生じます。そこで、今回は、相続放棄者側の立場で、相続税上の制度(配偶者の税額軽減・債務控除や葬式費用等)の適用関係についても解説します。
「相続放棄」については、民法上は「最初から相続人ではなかった」と考えますが、相続税の計算上は、「相続放棄」が行われなかったものとして計算を行う点で、大きく取扱いが異なります。
【ご参考~相続人と法定相続人の違い~】
単に「相続人」というと、「実際に相続をした方」のことを指します。一方、法定相続人とは「相続する権利を有する方」を指します。つまり、相続放棄した方は、「法定相続人」ではありますが、「相続人」ではありません。
相続税上は、たとえ相続放棄者がいた場合でも、「相続放棄」がなかったものとして計算を行います。つまり・・相続税算定時の「基礎控除や生命保険・死亡退職金の非課税枠の計算」は、実際相続した「相続人」ではなく、相続放棄者も含めた「法定相続人」で計算を行います。
この結果、たとえ相続放棄の方が何人いたとしても、相続税総額への影響は排除されます。例えば、法定相続人が子供5人、そのうち、相続放棄者が何人いたとしても、基礎控除の額は、3,000万円+600万円×5人(法定相続人の数)=6,000万円と算定します。
「相続放棄の方」も含めて「基礎控除」計算する趣旨は、相続放棄によって「意図的に相続税の金額が変わることを防止」するためです。以下、具体例で解説します。
● 独身の息子がなくなった ⇒法定相続人は父のみとする
● 息子(被相続人)には、その他に兄弟が5人いる。
● 父は相続放棄を行い、その結果、他の兄弟5人が相続人となった。
上記の場合でも、相続税上は、父の相続放棄の事実を反映させず、基礎控除の金額は、3,000万円+600万円×1人(相続放棄した法定相続人・父)=3,600万円と計算します。
仮に、父の「相続放棄」の影響を反映させて、相続税上の「基礎控除」の金額を計算した場合は、以下となります。
法定相続人は兄弟5人に増える ⇒基礎控除の額は、6,000万円に増える(※)
(※)3,000万円 + 600万円 × 5人 = 6,000万円
仮に、相続税上の基礎控除の計算が、上記の取扱いになるのであれば、父は意図的に「相続放棄」を行い、租税回避をする可能性があります。そこで、こういった「恣意性を排除」する観点より、相続税総額の計算上は、「相続放棄がなかった」ものとして、法定相続人の数をもとに「基礎控除の額」を計算を行います。
生命保険金の死亡保険金や死亡退職金は、相続を原因として支払われるものですが、相続人から相続される財産ではなく、死亡を原因として、相続人以外の「生命保険会社等」から支払われるものです。 したがって、「相続放棄」をした方も、死亡保険金等は「受取人固有の財産」と取り扱われますので、生命保険金等の受取は可能です。ただし、生命保険金等は、みなし相続財産として相続税の課税対象となります。
「基礎控除」と同様、生命保険の非課税枠・死亡退職金の非課税枠の計算についても、「相続人」ではなく「法定相続人」で算定を行います。したがって、「相続放棄した方」もカウントして、「生命保険の非課税枠」が認められます。
ただし、現実的に「生命保険の非課税枠」等を利用できるのは、「相続人」のみとなりますので、相続放棄した方は、たとえ生命保険金を受け取った場合でも、生命保険の非課税枠の利用はできません(相基通 12-8)。
●夫死亡、法定相続人は、妻、子供A・Bの3人
●夫死亡に伴い、妻・A・Bは、それぞれ1,000万円の死亡保険金を受け取った。
●子供Bは相続放棄を行った。
生命保険金の非課税枠総額の計算は、相続放棄者を含めて計算します。
500万円×3人(相続放棄者も含む)=1,500万円
非課税枠総額(1,500万円)は、相続放棄を行ったB自身は利用できず、実際相続した相続人である、妻とA2人が利用することになります。生命保険金の非課税枠総額1,500万円を、妻とAの受け取った保険金の割合(1,000万円ずつ)で按分します。
死亡保険金受取額 | 非課税枠 | 課税額 | |
---|---|---|---|
妻 | 1,000万円 | (※)750万円 | 250万円 |
A | 1,000万円 | 750万円 | 250万円 |
B | 1,000万円 | 0円 | 1,000万円 |
計 | 3,000万円 | (※)1,500万円 | 1,500万円 |
(※)1,500万円÷(1,000万円+1,000万円)×1,000万円=750万円
(結論)
相続放棄者Bに対応する非課税枠500万円は、B自身は利用できませんが、当該部分は、相続人である妻とAが余分に利用できる結論になります。
相続放棄した方は「生命保険」等の受取のほか、遺贈による財産受取も可能です。したがって、相続放棄した方についても「相続税」が課税される場合があります。そこで、相続放棄者と「相続税上の制度」との関係につきまとめます。
配偶者が相続放棄をした場合も、配偶者である事実は変わりませんので、配偶者の税額軽減は可能です(相基通19の2-3)。
相続放棄した人は、プラスの財産もマイナスの財産も引き継がないため、債務控除はできません。ただし、「葬式費用」は、被相続人が残した「負債」ではなく、相続人が負担すべき費用ですので、相続放棄者も差引可能です(相基通13-1)。
未成年者や障害者の相続人が「相続放棄」を行った場合も、基礎控除等と同様、相続税計算上は、「相続放棄がなかったもの」として取扱いますので、未成年者控除・障害者控除は可能です(相基通19の3-1)。なお、相続放棄は「財産管理行為」に該当するため、未成年者の相続放棄は、親権者が法定代理人として手続を行います(民法824条)。
未成年者控除とは、相続人が未成年者の場合、満20歳までの残年数につき、1年あたり10万円を相続税額から控除できる制度。障害者控除は、相続人が障害者の場合、満85歳までの残年数につき、1年あたり10万円(特別障害者は20万円)を相続税額から控除できる制度。
相次相続控除は、相続人に限定した規定となりますので、相続放棄者は、「相次相続控除」はできません。
相続開始前3年以内に、被相続人から贈与を受けた場合は、贈与がなかったものして相続税が課税されますが(3年以内生前贈与加算)、相続放棄した方は、原則として加算の対象外となります(相続時精算課税適用者は課税)。例外的に、相続放棄者が、生命保険等の「みなし相続財産」を取得した場合は、相続又は遺贈より財産を取得した者に該当するため、加算対象となります(相基通19-3)。
配偶者や一親等の血族(養子・代襲相続人含む)以外の方に相続税が課税される場合は、偶然性が高いことを背景に、「相続税が2割加算」されます。この点、相続放棄者が配偶者や一親等の血族(養子・代襲相続人含む)であれば、原則通り、2割加算の適用はありません(代襲相続人が相続放棄した場合のみ2割加算適用の例外があります)。
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/sozoku/14/08.htm
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/02/03.htm#a-13_1
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/02/06.htm#a-19_2_3
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/02/08.htm#a-19_3_1
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/sozoku/07/01.htm
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/02/05.htm#a-19_3
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相続を承認すると、お亡くなりになられた方の財産だけでなく「債務」も引き継ぐことになりますので、
例えば、「被相続人」に「多額の借金」がある場合は・・相続したくない場合もあるかもしれません。
こういった被相続人の借金等の債務を引き継ぎたくない場合は、「相続放棄」を行うことにより、債務を引き継がないことが可能です(民法938条)。
今回は、相続放棄のメリットデメリット、検討すべきケース・相続放棄できないケースを中心にお伝えします。
亡くなった方の「財産や負債」を「一切相続しない」という制度です。
相続放棄をすることで、被相続人の「債務」だけではなく、「財産」も引き継がないことになりますので、影響は非常に大きいです。相続放棄をすることで、最初から相続人でなかったことになります
なお、たとえ相続放棄を行っても、「生命保険金」は受取人固有の財産となるため、相続放棄の対象とはなりません。詳しくは、こちらご参照ください。
「相続放棄」ができる期間は、他の相続人への配慮から、相続の開始があったことを知った時から「3か月以内」とされています(民法915条)。この期間に放棄をしない場合、「単純承認」したものとみなされます。
なお、実務上は比較的柔軟に対応が行われ、 家庭裁判所の承認があれば「熟慮期間」の延長は認められます。
例えば、債務の存在を知らなかった場合などで、知らなかったことにつき相当の理由がある場合などです。
家庭裁判所に「相続放棄申述書(相続放棄の意思表紙を記した書類)を提出します(民法938条)。相続放棄は、相続人全員の了解が必要なわけではなく、各人ごとに判断が可能ですので、比較的手続きは簡単です。
申述書のフォームも用意されています。
「相続放棄」することで、被相続人の借金を相続しなくてよい反面、プラスの財産も一切引き継ぐことができない点、注意が必要です。例えば・・被相続人と同居していた方が「相続放棄」をした場合は、住んでいる自宅さえも・・明け渡さないといけないことになります
また、相続放棄は、一度裁判所に受理されると撤回できませんので、後々になって「高額な相続財産が見つかった」場合も、「相続放棄」の撤回はできません。
メリット | デメリット |
---|---|
●被相続人の借金から解放される ●相続の争いや煩わしさから解放 |
●借金だけでなく、プラスの財産も相続できなくなる ●一度放棄すると撤回はできない。 |
相続放棄をすることで、被相続人の「借金」などを引き継ぐ必要がなくなります。
したがって、被相続人のプラスの財産とマイナスの財産を比較して、マイナスの財産が多い場合は、相続放棄を検討すべきということになります。
同様に、被相続人が負っていた「保証債務」も引き継ぎません。例えば、被相続人が誰かの借金の「連帯保証人」である場合は、相続放棄により、「連帯保証債務」の引継ぎもなくなります。
実務上、保証債務は把握しきれない場合が多いため、「相続放棄」はそれなりの効果があります。
なお、被相続人の「プラスの財産の範囲内で」借金を相続する「限定承認」という制度もあります。
たとえ相続財産がない場合でも、相続人である以上、「遺産分割協議」や「名義変更手続」等、他の相続人と関わらなければいけませんので、意外と手続きは面倒です。
しかし、「相続放棄」を行うことで、そもそも最初から相続人ではなくなりますので、相続人としてのこれらの「手間」から「解放される」ことになります。
相続発生後「3か月以内」でも、以下の場合は「単純承認」とみなされ、相続放棄ができなくなります(民法921条)。
「形見分け」程度であれば処分しても問題になりませんが、「高価な遺品」を売却したり、名義変更した場合などは、相続財産の「処分」と取り扱われ、「相続放棄」が認められなくなります。
一方、相続財産の現状を維持する保存行為は、上記の「処分」には含まれません(民法921条1号但書)。
例えば、不動産の修繕や、債権の時効中断行為などです。
相続人が、相続財産を隠したり、勝手に消費した場合などは相続放棄できません。
(相続後に借金を返済した場合は?)
相続後に、「被相続人の借金」を返済する行為は、「返済資金」が誰のものか?で結論が分かれます。
被相続人の相続財産で借金を返済した場合は、相続財産の一部の処分にあたります(昭和53年10月23日富山家裁審判)。一方で、相続人自身の固有の財産を使って借金を返済した場合は、「相続財産の処分行為」にはあたらないものとされています(平成10年12月22日福岡高等宮崎支部)。
なお、葬式費用の支払も、相続放棄に支障をきたさない可能性が高いため、「相続財産の処分行為」にはあたらないものとされています。
相続放棄を行った人は、「最初から相続人ではなかった」ことになりますので、他の相続人にも影響を与えます。
例えば、相続放棄する人以外に、「同順位」の法定相続人がいない場合は、次順位の人が「法定相続人」に昇格します。
相続放棄を行うケースは、「借金がある場合」が多いため、次順位の方が相続人に自動昇格され、予想外に借金を背負わされる可能性があります。したがって、相続放棄する場合は、あらかじめ関連者に伝達しておく方がよいと思います。
なお、次順位の人ももちろん、「相続放棄」は可能です。
遺産を守る観点でも、「相続放棄」が有効に機能する場合があります。
例えば、以下のような場合です。
このケースでは、借金のあるBが「相続放棄」を行えば、借金のないAが遺産を全額相続することになる結果、「遺産を守る」ことができます。
Bが「相続放棄」をしない場合とした場合の影響をまとめると、以下の通りです。
パターン | 法定相続人 | 法定相続分割合 | 相続財産の行方 | 影響 |
---|---|---|---|---|
Bが相続放棄をしない場合 | A・B | A 1/2・ B 1/2 | A・Bそれぞれに相続財産が配分 | Bが「相続放棄」をしない場合、Bは1/2を相続するため、B相続財産は、Bの債権者から取り立てられてしまう。 |
Bが相続放棄をした場合 | Aのみ | A 100 % | Aが相続財産を全額取得 | Bが「相続放棄」をする場合、Bが相続する財産はないため、相続財産がBの債権者に取り立てられるおそれはなくなる。 |
つまり、借金がある人が「相続放棄」を行うことで、もう一方の相続人に、財産は完全に相続される結果、遺産を守ることができることになります(債権者から遺産を取り立てられるリスクが消える)。
なお、上記例で、Bが相続放棄ではなく、「遺産分割協議」で、Bの相続分を少なくすることも考えられますが「遺産分割協議」が詐害行為に該当するとして、債権者側が「詐害行為取消権」(民法424条)を行使できる可能性があるようです。
例えば、ご自身が契約者の生命保険を、夫から妻、あるいは親から子供に名義変更する場合もあると思います。こういった「生命保険契約の契約者変更」があった場合、贈与税が課税されるのか?という論点です。
今回は、個人から個人への契約名義の変更を前提とします。
個人⇒法人、法人⇒個人への名義変更もありますが、この場合は相続税、贈与税の論点ではなく、所得税、法人税の論点となりますので、今回は省略します。
例えば、以下の場合が考えられます
生命保険を契約する際、「契約者」「被保険者」「受取人」を指定しますが、「契約者」「受取人」は、契約途中に名義を変更することも可能です。
個人から個人に生命保険契約の名義を変更した場合でも、贈与税は課税されません。
相続税法は、相続時や保険事故が発生時、解約時などに相続税、贈与税が課税される考え方をとっています(出口課税)。
契約者を変更した際は、あくまで「契約上の地位の変更」であり、「保険料負担者」の地位は変更されていない以上、変更後の契約者に「財産的な価値」は移転していないため、その時点では贈与税は課税されません。
以下、保険契約者を相続人に変更した場合、契約者=保険料負担者を前提とします。
●父が、自らを被保険者・子供を受取人として支払っていた終身保険(保険金1,000万円)を、子供が成人した際のプレゼントとして、契約者を子供名義に変更した(被保険者、受取人は変更なし)。
契約者変更までに、保険料払込総額のうち80%は父が支払っていたものとする。
●上記終身保険は、解約返戻金があるものとする。
契約者変更後に、新契約者がその保険契約を解約して解約返戻金などを受け取った時点で、「解約返戻金相当額」につき、課税関係が生じます。前契約者が過去に負担していた部分は、贈与とみなされ、「贈与税」が課税されます。一方、契約変更後、ご自身が負担した部分には所得税が課税されます。例えば、解約時点の解約返戻金が500万円の場合、500万円×80%=400万円は贈与税、残りの100万円は所得税が課税されます。
変更前の契約者が負担していた部分 | 贈与税 | 解約時に保険料負担者から贈与 |
---|---|---|
変更後の契約者が負担していた部分 | 所得税 | |
生命保険解約前に、前契約者が死亡(相続発生)した場合は、保険事故発生により保険金が支払われます。したがって、相続時点で「解約返戻金相当額」のうち、前契約者負担部部分につき、相続税が課税されます。なぜなら、この場合は、相続時点で「保険料負担者の地位」も変更されるためです。
また、契約変更後、ご自身が負担していた部分は、所得税が課税されます。
保険金が1,000万円ですので、1,000万円×80%=800万円は相続税、残りの200万円は所得税が課税されます。
変更前の契約者が負担していた部分 | 相続税 | 被保険者保険料負担部分を被相続人から相続 ⇒生命保険契約に関する権利として課税 |
---|---|---|
変更後の契約者が負担していた部分 | 所得税 | |
なお、過去に前契約者が支払っていた保険料部分につき、生前に生前贈与の非課税枠110万円を活用して贈与を行っておくことで、解約時や相続時の課税関係の影響を抑えることも可能です。
(生命保険契約について契約者変更があった場合)
相続税法は、保険事故が発生した場合において、保険金受取人が保険料を負担していないときは、保険料の負担者から保険金等を相続、遺贈又は贈与により取得したものとみなす旨規定しており、保険料を負担していない保険契約者の地位は相続税等の課税上は特に財産的に意義のあるものとは考えておらず保険料を負担していない保険契約者の地位は相続税等の課税上は特に財産的に意義のあるものとは考えておらず、契約者が保険料を負担している場合であっても契約者が死亡しない限り課税関係は生じないものとしています。したがって、契約者の変更があってもその変更に対して贈与税が課せられることはありません。ただし、その契約者たる地位に基づいて保険契約を解約し、解約返戻金を取得した場合には、保険契約者はその解約返戻金相当額を保険料負担者から贈与により取得したものとみなされて贈与税が課税されます。
この場合は、遺言がない限り、保険料負担者の地位は相続人に引き継がれますが、保険契約者の地位は相続人以外となります。したがって、相続人以外の方は、保険契約者の地位だけの移動となり、課税関係は生じません。
法人から個人へ契約者変更を行う場合には、契約者変更を行った時点で、無償で引き継ぐ場合は「解約返戻金相当額」が給与所得として課税されます。ただし、変更時点で解約返戻金相当額を支払えば(=有償)、個人側に課税関係は生じません。
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/sozoku/14/05.htm
代襲相続とは、相続開始時点で既に「法定相続人」が亡くなっている場合に、亡くなった「法定相続人」の代わりに、「代襲相続人」が財産を相続する制度です。
代襲相続人の例としては、被相続人のお子様が「被相続人」よりも先に亡くなっている場合の、お子さんのお子さん(孫)ですね(詳しくは、「代襲相続とは」をご参照ください)。
一方、養子縁組をした人は、実子と同様に取り扱われるので、その養子の「子供」にも「代襲相続権」は認められます。
しかし、養子縁組を行った時期との関係で、養子の子供に「代襲相続権」が認められない場合があります。
以下にまとめておきます。
養子であっても、相続税上は実子と同様に取り扱われるため、「養子の子供」には「代襲相続権」が認められます。
「養子になったタイミング」により、「代襲相続権」が認められないケースがあります。
なぜなら、民法上、養子は、「養親と養子縁組を行った日から法定血族関係(親族関係)に入る」と規定されています。
つまり、養子縁組を行った後に初めて親族関係になりますので、親族関係に入った後に生まれた子供だけが親族関係となり、養子縁組を行う前から存在する養子の子供は、被相続人の「親族関係」にはならないんですね。
養子と代襲相続権の関係をまとめると、以下のとおりとなります。
種類 | 代襲相続権 |
---|---|
養子縁組を行った時点で既に存在した「養子の子」 | なし |
養子縁組後に生まれた「養子の子」 | あり |
相続税の論点の1つに「養子縁組」という制度があります。
「養子縁組」を結ぶことで、一般的に、相続税が安くなるケースがあります。
相続税対策として養子縁組が行われるケースは、全くの他人を養子縁組にするよりも、お孫さんや、お子様の配偶者などをご自身の養子に組み込む場合が多いです。
ただし、養子縁組が行われた場合でも、相続税が高くなるケースがあるため注意が必要です!
養子縁組とは親子関係でない者同士を、法律上親子関係にする制度です。
民法で定められています。養子縁組には、次の2種類があります。
普通養子縁組 | 原則として、当事者の合意により自由にできる養子縁組(養子が未成年の場合は、家庭裁判所の許可が必要)。 | 実親との関係は継続しますので、二重の親子関係となります。 この場合、「実親」と「養親」の両方から相続できます。 |
---|---|---|
特別養子縁組 | 両親の死亡や虐待など、特別な事情がある子供につき、家庭裁判所によって行われる養子縁組。 | 実親との関係がなくなり、養親だけが親となります。 この場合、相続は「養親」からのみとなります。 (「実親」からは相続できない) |
民法上は、「養子縁組」できる人数に制限はありませんが、相続税法上は、養子人数につき「制限」があります。
相続税上、養子は実子と同様に取り扱われ、「法定相続人としてカウントできる」ので、歯止めの観点で上限を設けています。
以下の通りとなります。
被相続人に「実子」がいる場合 | 1人まで |
---|---|
被相続人に「実子」がいない場合 | 2人まで |
次の場合は、例外的に、相続税上も「養子の上限制限」はありません。
(相続税法第15条第3項)
(1) 民法による「特別養子縁組」による養子
(2) 配偶者の実子(連れ子、養子も含む)が被相続人の養子になった場合(※)
(3) 被相続人との婚姻前に被相続人の配偶者の「特別養子縁組による養子」となった者で、その婚姻後にその被相続人の養子となった者(※)
(4) 被相続人の実子・養子・直系卑属が、相続以前に死亡した(or 相続権を失った)ため、相続人となった直系卑属(=代襲相続人のこと)
(※)配偶者との婚姻関係を結んだ後に、被相続人と養子縁組をした場合のみです。
配偶者と婚姻関係を結ぶ前に被相続人と養子縁組を結んでいる場合は、通常通り「被相続人の養子」としての扱いとなり、上限制限があります。
実務上は、孫を養子縁組に組み込むケースが多いです。
孫は法定相続人ではありませんので(代襲相続除く)、相続の場面で、遺贈等の方法で孫に渡す場合、相続税の「基礎控除額」や「生命保険の非課税枠」はありません。しかも、孫については相続税につき2割加算されます。
一方、孫が「養子」になると、実施と同様に取り扱われるため、「法定相続人」が増える結果、「相続税の基礎控除額」や「生命保険金等の非課税枠」が増加します。
基礎控除を活用しながら、遺産を孫に「直接財産」が移転できる点でメリットがありますね。
養子縁組の活用として、財産のある父の実子が、後妻の養子に入るケースもあります。この場合も、上記と同様の効果があります。
養子縁組をすると、必ず相続税額が安くなるかというと・・そうではありません。
養子縁組をした結果、法定相続人の総数が減り、相続税の基礎控除額が減少する場合があります。
例えば、被相続人の法定相続人が、兄弟のみの場合です(配偶者・実子・両親すべていない)。
(非課税枠)
法定相続人 | 基礎控除額(非課税枠) | |
---|---|---|
養子縁組をしない場合 | A・B・C | 4,800万円 (3,000万 + 600万 × 3人) |
養子縁組をした場合 | Aのみ | 3,600万円 (3,000万円 + 600万 × 1人) |
法律上の子(=養子縁組したA)は、兄弟姉妹よりも相続順位が上位になります。
したがって、Aが養子縁組に組み込まれることにより、結果的に、Aのみが法定相続人となり、残りの兄弟( B・C )は、法定相続人ではなくなります(詳しくは、法定相続割合をご参照ください)。
法定相続人が多い方が、相続税の基礎控除額や、生命保険金等の非課税枠は増えますので、こういったケースでは・・相続税の「基礎控除額」が減ります。
前述の通り、「孫養子」は法定相続人にはなりますが、「相続税の2割加算の対象」になりますので、注意しましょう。
相続税対策で「養子縁組」をしたにもかかわらず、2割加算で相続税額が増えてしまうと意味がないので・・注意です。
「相続税の負担を不当に軽減する場合は、・・養子を算入せずに税額を計算することができる」という規定があります
(相続税法63条)。
つまり、節税目的だけの養子縁組は否認されるリスクがありますので、「養子縁組」を行う合理的な理由が必要です。
例えば、「面倒を見てくれた孫に、遺産を引き継がせることで恩返ししたい」などの理由です。
なお、最高裁で「節税目的の養子縁組でも直ちに無効とはいえない」という判決があります(2017年1月31日)。
しかし・・この判決は、民法上「有効」かどうかが争われただけです。
「節税目的の養子縁組であっても、民法上直ちに無効とはいえない」というだけで、「相続税上、節税目的の場合に100%有効」という判決ではありませんのでご留意ください。
上記の通り、養子縁組を行うことで、同順位の法定相続人が増える場合や、法定相続順位の変動があります。
例えば、実子がいる場合は、養子縁組をすることで、同順位の法定相続人が増え、実子の相続分が減ります。また、実子がいない夫婦の場合は、養子縁組をすることで、第一順位の法定相続人が増え、残された配偶者の相続分が減ります。
したがって、養子縁組を行う前に、実子や配偶者などと合意しておかないと、後々トラブルになります。この場合、遺産分割が申告期限までに確定できず、各種税法の恩典を利用できない可能性もありますので、留意が必要です。